レンリツ方程式 | ナノ





お昼。今日はパスタにした。4種類ほどのものを作り好きなものを好きなだけとってもらえるようにと置いておく。それにバナナでも付ければ昼食の出来上がりだ。飲み物はセルフサービスでどうぞ。

と、まあここまでは昨日と一緒なのだが、ここからが新しかった。


「今日のお昼はぁパスタにしてみたの!ミートソースとぉペペロンチーノとぉ和風なのとぉ明太子の4種類作ったんだよぉ?」
「へぇ!そりゃすごいっすね!」
「4種類も大変やったろ?」
「ううん!やっぱりいっぱいあったほうがいいじゃない?だから梨々頑張ったんだ!あ、でも美味しくなかったらごめんね?」


食器にすら手をかけていないやつがよくもまあ人の作った料理に対して「美味しくなかったらごめんね?」なんて言えたものだ。ほんとに人間としてどうかしてやがるこのアマ。

しかも何も疑わず宝華梨々が作ったと思い込む辺り、本当に重症なようだ。いつあいつが昼食を作るために練習抜けたんだよ。今の今まで黄色い声あげてただけだろうが。

ふむ、今日の夜はひと目じゃわからない料理にしてやろうか。ラザニアとか作ったらアイツグラタンとか口走ってくんねえかな。そこを跡部さんあたりが指摘して空気が凍ってしまえばいい。

私も昼食をとることにした。右には若でその若の隣には跡部さんが座っていて、私の前には光、そのとなりにちーちゃん。そのとなりには白石さんが座っている。


「……これ、全部未久が作ったんやろ?」
『当たり前でしょ、アイツが厨房に入ってきたことなんてこの合宿始まって一度もないっての』
「せやろな。てかアイツ料理できるんか?」
『できないでしょ』
「ははっ!即答やなあ」


光はペペロンチーノを食べている。隣の若は和風。ちーちゃんは明太子で白石さんは和風と明太子のふたつを食べている。跡部さんはペペロンチーノだ。


「今日も大変だったみたいだな」
『あれくらい大変でもなんともないよ。まぁあの糞女のキンキン声を聞いてると耳がおかしくなりそうだけど』
「同意する」


若はフォークに刺さったキノコを眺めながら私と会話していた。


「ばってん、未久」
『なに?』
「こんままでよかと?これ以上あいつらん神経逆撫でしちょってもよかと?」
『いいのいいの。惨めになるのはあっちだし』
「その通りだな。最後に自分の惨めさに膝を折ることになるだろうがそこからしか学べねえこともある。あいつらにはそれが必要なんだよ」
「せやねぇ」


跡部さんの言葉に相槌を打つ白石さん。やはり部長同士思うところは同じなようだ。


『さて、夜はどうしようかな』
「もう夜んこつ考えとるばい?」
『もうじゃないよ、時間があるうちに考えて下準備とかしておかないといけないんだし』
「それもそうか」
『ねえ、アイツさラザニアとグラタンの区別付くと思う?』
「「思わん(思わない)」」


1年生コンビである光と若が見事にハモる。それを聞いて笑うのはその両校部長。


「「笑い事じゃないっすわ(笑い事じゃないです)」」
「「ふはっ!」」


見事にツボに入ったようで白石さんも跡部さんも腹を抱えてぷるぷる震えている。よくよく考えればこの二人生意気な後輩といった印象が大きいふたりだ。だからこそ余計面白いのだろう。


「ばってん、ほんにグラタンとラザニアの違いってなんばい?見ればわかっちけど」
『グラタンはフランスが発祥の料理で広い意味で使われる言葉だよ。オーブンとかで表面を焦がした調理法のことを指すんだ。ラザニアはイタリア料理。パスタの一種なんだよ。ソースやチーズを何層にも重ねて焼き上げる料理のこと』
「ほー」
『ま、今日の夜はカレーにするよ。辛さを3段階にしてあとはお好みで辛さ調節できるようになんかおいておけばいいでしょ』
「カレーか」
「外れはないしな」
『んで明日の昼はカレーうどんね』
「いや、そこまでカレー残らんと思うで?」
『そう?』
「まあ男子高校生言うたら食べ盛りやからなあ」


私が視線をさまよわせれば大皿にいっぱいだったパスタがもうすっからかんなのが視界に入った。


『……確かにね』


これは同意せざるを得ない。でもまあ明日のお昼はうどんにしようかな。


「蛭魔、今日の夜に土曜日に行う試合の対戦表を作るがお前も来るか?」
『いえ、私が行ったってわかんないですしね。遠慮します』
「そうか」


きっと跡部さんなりの気の使い方なのだろう。

すると跡部さんは食べ終えたようで席を立ち上がり食堂をあとにしようとした。しかし私の背後を歩いていく際に跡部さんは自らの顔を私の耳元に近づけて言葉を一言残してから食堂を出ていった。


「ちょ、今なにされたん?」
「跡部さん……下克上だ……」
『いや、別になんにも』




ラザニアとグラタンの違いについて




「うまかったぜ」

その言葉が頭の中を駆け巡っていた。




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