レンリツ方程式 | ナノ




シャワーを浴び終え着替えを終えた私は第3コートのCチームのもとへと戻った。練習は普通にしていたようだが私が現れたとたん練習は中断。ずんずんと私の元へとやってきたのは弦一郎だった。


「未久!怪我は、ないんだな?」
『見たとおりなんにもないよ。切原くんに助けられた』
「ほんまに、大丈夫なんか?」
『はい、問題ないです』
「……すまない」


声のした方向を向けばそこには頭を下げ唇を噛み締めた大石秀一郎が。その脇にも眉を下げた河村隆がいた。


「うちの部員が、申し訳ない」
『いいえ、結果的には誰も怪我をしていないわけですし。それに誰かを守ろうとしたという事実は褒めるべき点ではあると思います』
「蛭魔さん……」


一応このチームは大丈夫そうだと思われるメンバーが多い。この調子なら説明をしたほうがよさそうだ。


『白石さん、お時間よろしいですか?』
「せやねぇ……うちの部員も関わってることやしなぁ……立海の真田くんがえぇなら」
「俺は構わない」
『なら、皆さんにお話しておきたいことがあります』


私はこの合宿でしたいと考えていることを大まかに説明した。


『詳しい理由は今お話することはできません。ですが、きっとこれからのテニス部のためになる事なんです。どうか、ご理解とご協力をよろしくお願いいたします』
「確かに、今の英二は少しおかしな部分がある。一言目には梨々、二言目には梨々とばかり……。それがきっと詳しい理由なんだろうね」
『はい』
「今の状態で氷帝を追い出したとしても青学に来る可能性は確かにありそうだよね……」
「あぁ」
「それは話した通り我が立海や四天宝寺にも言えることだ」
「せやけど、なんで未久ちゃんがこんなことしとるん?」


白石さんは顎に手を置き考え込みながら聞いてきた。


『最初は彼女に少し興味が湧いていたんです。でもここまで関わるつもりはなかった』


これは本音だ。詳しく調べてやろうとは思っていたが直接関わるつもりは毛頭なかった。


『私は所謂情報通だったんです。言うなら立海の柳さんや青学の乾さんみたいに調べることが好きで。跡部さんがそれを知っていたみたいで私を頼ってきて。でも最初は乗り気じゃなかったんです』


自分が欲しい情報だけが手に入ればそれでいいと思っていた。それを他人に譲渡するなど何の意味も特もない行為だから。


『でも、テニス部にいた知り合い……滝萩之介から頭を下げられてしまったから。私は宝華梨々という存在を調べ上げてやろうと思ったんです』
「滝くんと知り合いだったんか」
『今はただの先輩と後輩のフリをしていますが長い付き合いです』
「へぇ……」


なるほどな、と頷く白石さん。ほかのメンバーも思うところがありそうだ。


『今はまだ、おかしな状態にある人たちもいます』


逆ハー補正を受けて本心でもないのに勝手に好きだと認識させられている男子テニス部の面々。


『でも、必ず元に戻ります。そしてこれ以上の被害も出しません』


萩ちゃんがいて、若がいて。弦一郎もちーちゃんもやっていたテニスだが興味なんてなかった。でもこうして間近にテニスと関わって実際に触れ合って、真剣に取り組む姿がそこにはあって。楽しそうにテニスをする姿からどれだけテニスが好きなのか、私には伝わってきた。

だからこそ、そんな彼らの思いを踏みにじっているアイツを私はここから、この世界から消さねばならない。


「未久ちゃん」
『金色さん……』
「小春って呼んでえぇんよ!いや!小春って呼んで!」
『小春、さん』


一歩前に出てきて私の手を包み込んだのは四天宝寺の金色小春さんだった。


「未久ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わってきたで!見ず知らずのわてらのことまで考えてくれておおきに!」
『いえ、私は……』
「それに、こない頑張ってくれとるからね」


そういって小春さんは包んでいた私の手を少し上に上げる。


「この手は頑張ってる子の手やね、見ればわかるわぁ。せやけどあの子の手はこないな手やない。無理したらあかんけど、わては未久ちゃんのこと応援しとるからねっ!」
『小春さん……ありがとうございます』
「お前は一人ではないのだぞ、未久」
『弦一郎』


ぽん、と私の方に手を置く弦一郎。


「幸村も蓮二も、そして赤也もいる」
「へへっ!」
「我が立海は未久の味方だからな」


弦一郎に切原くんが笑ってくれる。そして大石さんと河村さんも前へ出てくる。


「俺たちに出来ることは少ないと思う。でも可能な限りで俺たちも手伝いたい」
「なにかやれることがあったら言ってくれよな!」
「それは俺らもやで、なぁ?」
「せやで!」


白石さんも小石川さんも笑いかけてくれる。


『樺地くんにも無理させてごめんね?』
「ウス……気にして、ません」
『そっか』


宝華梨々。本当にアンタは愚かだね。

こんな私なのに、こんなにもみんなが笑顔を向けてくれる。嘘偽りのない笑顔を向けてくれる。欲なんかに目をくれずとも手に入るものなのに。




嘘の愛と真実の絆



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