レンリツ方程式 | ナノ





「未久ッ」
『ちーちゃん?』


マネージャールームでドリンク作りに精を出していた私のもとへと息を切らしてやってきたのはちーちゃんこと千歳千里だった。そして後ろにはなぜか若と光がいる。


「今、食堂で、」


事のあらましを三人から聞く。なるほど、どうやら私自身から動く必要はなかったようだありがたい。敵さんから動いてくれたようだ。

私は話を聞き終え、それと同時にドリンクも作り終えた。そしてそれを冷蔵庫へとしまっておいて立ち上がった。


「ど、どこいくばい!?」
『食堂に決まってるじゃない』
「なっ!」
「今言ったらどうなるかわかってるのか?」
『当たり前じゃない。怒り狂った兵士が私を殺しにかかってくるってとこでしょ?』
「なら、」
『それを利用するの。まあ見てなって』


私は騒ぎの中心である食堂へと足を向けた。もちろん後ろからは3人もついてくる。

食堂の扉の向こうは今だに騒がしい。私は扉を押しあけた。

視線が一気にこっちにむく。


「テメェ!蛭魔未久っ!」
「なんてことしやがった!」
「そんなことかんがえとったんやな、アンタ」
『なんの、話ですか?』


あくまでいま騒ぎを知ったかのように振舞う。宝華梨々は真昼さん……妖兄の袖を掴んでいる。どうやら妖兄は全て分かって行動してくれていたようだ。流石は我が兄貴といったところ。


「ひっ、未久ちゃん昨日、梨々のこと殴ったよねっ」
『昨日、ですか。練習中の騒ぎですか?』
「しらばっくれんなよ!昨日の夜!梨々の部屋にまで行って殴ったんだろ!?」
『そんなことしてません!』
「じゃあなんで梨々のほっぺはこんなに赤くなってんだよ!」
『そ、そんな!わたしはなにもっ!』
「いいかげんにしろっ!」


桃城武が拳を振り上げる。私はその瞬間に口調を変えた。


『……いいの?』
「ッ」


私の言葉と視線に振り下ろしていた拳をぴたりと止める。


『いいの?』


首をかしげて再度尋ねる。


「な、何がだよっ!」
『私を殴って』
「はぁ?!」


わけわからないと声を上げる桃城武とその他多数。


『暴力事件になるよってこと。男子テニス部員がマネージャーを殴り怪我を負わせたって。そしたら桃城くん、大会出れないよ?ううん、桃城くんだけじゃなくて青学テニス部が大会に出れなくなるよ?いいの?』
「最初に梨々に手ェ出したのはお前だろ!」
「そうだそうだ!」
『証拠は?』
「は?」
『証拠はあるんですか。私が宝華先輩を殴ったって』
「そんなもん、梨々が泣いてることが証拠だ!」
『そんなもの証拠になるわけがないじゃないですか。私が泣いてやってませんっていたらやっていない証拠になるんですか?』
「なるわけねぇじゃねえか」
『じゃあ宝華先輩のだってなりません』
「口からよくもまぁペラペラとでてくるなぁ、自分」
『私は本当のことを言っているまでです。勝手に決めつけられてこっちだって黙っていられるわけないじゃないですか。証拠がなければ意味はない。ですがいま桃城くんが私を殴ったら証人はいっぱいいますから』


そう言って周りを見渡す。幸村さんや弦一郎と目が合う。


『桃城くんが私を殴ったってこの問題が解決するわけじゃない。桃城くんは抑えきれない感情を私にぶつけようとしてるだけです』
「じゃあお前は梨々が嘘付いてるっていうのかよ」
『はい』
「テメェ!」
「くそくそ!いいかげんにしろよな!」
『じゃあこんな仮説はどうですか?他の人が宝華先輩を襲ったけどその襲った人物に脅されて犯人を私に仕向けるようにした、とか』
「なっ」
「そんなこと、」
『あるわけがない、とは言い切れないでしょう?あるわけがないと言いたいのなら私だって宝華先輩を殴るわけがないと言えますから。私には理由がない』
「せやかてさっき、梨々が言うにはお前が俺ら狙いやって……」
「そうだ!」


忍足謙也の一言でヒートアップする桃城と海堂。バカはこれだから困る。


『忍足侑士さん、私部活に入部する前に言いましたよね?あなたたちに興味なんてないって』
「それほんまか?侑士」
「あぁ、言われたな。確かに俺らはイケメンやけどただそれだけや、だったら兄貴の方がイケメンやって言われたわ」
「ブラコンか!」
『ブラコンの何が悪いんですか』


私は忍足謙也を睨みつけておいた。


「それが嘘だったらどうするんスか!」
「そうッスよ」
『なら、宝華先輩のソレだって嘘かもしれないじゃないか。そういうのをなんていうか知ってる?贔屓って言うんだよ。物事を客観的に見れない奴に犯人扱いされたくないです』
「なんだと!?」
「そろそろやめようか」
「「「「!」」」」


なんていいタイミングなんだ。凛とした声が食堂に響く。幸村さんだ。


「話を聞いていれば君たちはもう少し冷静になるべきだと思うよ」
「幸村さんっ!だって!」
「だってではないだろう、このたわけが!」
「お前たちはなんだ、警察気取りか?それともヒーローごっこでもしているのか?」
「目の前のことを簡単な感情で鵜呑みにして他校のマネージャー殴ろうとするだなんて呆れるね。手塚がこれを知ったらどう思うのか、」
「「!」」


目の前の青学コンビの肩が震えた。


「もう朝食の時間も終わっている。練習は9時からだ。遅れないようにしろよ」


立海の3強とその後ろにいた赤也はそうして食堂を去った。ほかのメンバーも文句をブツブツと言いながら食堂をあとにする。今残っているのは真昼さんこと妖兄と萩ちゃんとジロー先輩と丸井ブン太さ……いや、あれは。


「大丈夫だったかよぃ?」
『なにしてんですか、仁王さん』
「……プリッ」


やはり、仁王雅治だったか。

仁王さんはカツラを外すと私の目線まで腰を曲げた。


『おまんの嘘には説得力がある。おまんの本当には理解がある。まーくんもびっくりじゃ。じゃがのう、あんまり調子にはのるんじゃなかよ?あんな状態の奴らがなにしてくるかなんて予想できたもんじゃないけんのう』


そういってわしゃわしゃと頭をなでると仁王さんも食堂を去っていった。



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