レンリツ方程式 | ナノ





食事終了後私は洗濯物を回収し洗濯室へ。色落ちなどの予防のため学校別に洗う。洗濯機も5台あるみたいだし問題ない。もう一台でタオルをどさっと洗濯。もちろんタオルは全チーム分だ。

本当は皿洗いをする予定だったのだけれど青学の河村隆さんと不二さん、それから立海のジャッカルさんが皿洗いを申し出てくれて、一度は断ったものの不二さんにニコリと微笑まれてしまってはどうすることもできない。

不二さんと幸村さんを相手にするくらいなら私は金剛阿含の相手をすると思う。それほどだよ、あのふたりは。

それから妖兄にはコート整備をお願いした。ドリンク作りはさせたものの妖兄はQBなのだ。指や手には気を使わなければならない。


『妖兄の手はすっごく綺麗なんだよねー……私と違って』


マネージャーを初めて早数週間。私の手はあかぎれが多く普段なかなか使わない左手には肉刺も少し。

一方、


『宝華梨々の指には綺麗な綺麗なネイルが施されているというわけですよ』


足先から頭のてっぺんまで完璧にできるのなら是非ともそれを振る舞いの方にも回して欲しいものだ。これじゃあ、


『張り合いがないじゃない』


萩ちゃんや若、そして出会った多くの男子テニス部のメンバー。彼らのためにも早く彼女を追い出す必要があるのはわかっている。そして真剣になる必要があることも。

しかし、だ。

どこかでこのやりとりを楽しんでいる自分自身がいた。複雑に絡み合った人間関係。ひとりの人間にかき乱される絆。恋をはるかに超越した快楽。そのどれもが普段は絶対に味わうことのできない人間の営みなのだ。そしてそれを味わうには普段とは違いリスクが少ない。それも私がこんなにもワクワクしている理由の一つなのだろう。

面白いことが好き。これが私の極論だ。

しかし面白いことというのはそこらへんにホイホイ落ちているものでもなければタダでもない。必ずなにかしらのリスクが存在する。それは社会的な地位だったり命そのものだったり時には貞操だったり。

今回の最大のリスクはあって貞操の危機、もしくは暴力といったところだ。しかし相手は高校生。されど男子高校生と言われてしまえばそれまでだけれど、もうそろそろ少年Aとはおさらばの時期である。


『でもこれはこれで大きなネタだよね。“全国常連校の男子テニス部が少女を暴行!”なんてまあスポーツ記事の1面だわ』


現に優勝校の飲酒事件や暴行事件は大きく載せられている。


『あのお姫様は夢と現実の区別ついてるのかなあ……?まぁせいぜいキャラとの恋愛を育む場くらいしか思ってないんだろけど……あーおめでたいなあ』


確かに彼女の世界からすれば、私たちの住むこの世界は漫画やアニメなのかもしれない。そして私たちはキャラクターなのかもしれない。

それでも、だ。

私たちは今こうして生きている。息もしてるし心臓だって動いている。肌を傷つければ血が出るし殴られれば痛い。怒られれば悲しいし褒められれば嬉しい。血も通っている肉もついてる、心もある。

ただの、人間なのだ。


『全く、神とかいう存在も何を考えてるんだかね』


私はまだ見ぬ「神」という存在に思いを馳せながら洗濯物を干した。



洗濯物を干し終え、私は一度コートへ。そこにはもちろんコート整備中の妖兄が。


『お疲れ』
「よォ、選択は終わったのか?」
『まぁね。そっちは?』
「あと2面ってとこだ」
『んー、じゃあ私はボトル洗って干しとく。妖兄は終わったら戻ってていいから』
「あ?」
『妖兄はもう水仕事しなくていいから。もし何か私のためにしたいとか考えてるんだったら今日の監視カメラの映像と盗聴器の音声の合成作業よろしく』
「しゃーねーな」
『はいはい』


ホント、素直じゃない兄貴というか。ま、素直だったら気持ち悪すぎるけれども。こんな兄だからこそ私はここまで兄のことを好きでいられているのだと思う。

私は兄と別れてマネージャールームへ。乱雑にかごに入っている汚れたボトルたちを水道まで持って行き洗う。ボトル専用のたわしでシャコシャコと磨いてすすいでひっくり返して乾かす。明日の天気も晴れだし、特別強風が吹く予定もないからこのまま外に置いておいても問題はないだろう。


『それにしても、夕食の時はめんどくさいことしてくれたな』


せっかく暴力行為を促したというのに、謝罪とともに私が夕食準備をしたみたいなことになってしまった。そのせいか騒ぎは多少沈静化。


『もう少し素でいったほうがいいかもしれない』


もっとかき乱されればいい。大きな過ちを犯してしまえばいい。

人間は得てして、失敗からしか学べない愚かな生物なのだから。

そして二度と同じ過ちを起こさぬように。




嘲笑のマリーアントワネット


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