その後その場に残っていたメンバーもコート外周5周を終えまた練習へと戻った。私は兄の影響もあってそれなりに運動ができる。スピードはないけれど持久力には自信があるから。そして言わずもがな宝華梨々が一番遅かった。
そして時刻は17時を過ぎた頃だった。夕食の時間は19時。
『白石さん』
「ん?どないしたん?」
『夕食の準備をしてきます』
「おん。美味いの頼むわ!」
『過度な期待はしないで待っていてください』
私は一言白石さんへと断りをいれコートを出た。向かう先はもちろん厨房。
お米も炊き上がっている。あとはお味噌汁とサラダといったところか。サラダはレタスをちぎってきゅうりを切ってキャベツの千切りとコーンとトマトとツナを添えたものだ。お味噌汁は豆腐にしたかったのだが30人分のお味噌汁を作るにあたって絹ごし豆腐なんか使ったら崩れるに決まっているのでお麩に変更。お麩とわかめとお好みでネギにした。
あとは肉じゃがを火にかけなおして終了。
洗い物をしながら明日の朝ごはんのことを考える。洋食か和食か。果たして男子高校生は食パンを何枚食べるのだろうか。3枚くらい?私は1枚あればいいけれど。あぁ、いっそ両方にしてしまうか。
「未久」
『あ、妖兄』
気がつけば背後に妖兄がいた。ということは外の練習は終わったのだろうか。
「準備は終わったのか?」
『まぁね』
「ケケケ、手際だけはいいよな」
『だけなの?』
「さぁな?」
ケケケ、と妖兄特有の笑い声が漏れる。
『練習は終わったの?』
「あぁ。今は各自着替えか風呂ってとこだ」
そう言われて時計を確認すれば時刻はすでに18時20分。
『あ、そうだ妖兄』
「なんだ?」
『妖兄だったら朝、食パン何枚食べる?』
「あ?俺か?2枚は食う。あとは他のものによる」
『おかずってこと?』
「あぁ」
『なるほどねぇ』
ふむ、と私は顎に手を置く。
「明日の朝か?」
『うん。ただほら弦一郎とかって和食じゃない?でも跡部さんは洋食っぽいし』
「ケケケ、確かにな」
『昼とか夕食はアレだけど、朝食ってこだわり持ってる人多いじゃない?』
よく聞く朝はパン派ごはん派というやつだ。
『もう考えるのもめんどくさ。両方作るわ』
「お前って変なところで適当だよな」
『命かかってるわけでもないからいいでしょ』
「はいはい」
そんな会話をしていれば食堂へと人が集まってきた。
『盛るのは手伝ってくれるんですよね?』
「はい、もちろんです」
人がいるからと真昼モードに切り替わる妖兄。おもしろすぎる。それはもちろん私もなんだけど。
出しておいた食器にご飯を盛り、お味噌汁をもり、肉じゃがを持っていく。元々小鉢に入れて置いたサラダと共にお盆の上にのせお箸を一膳のせ完了。それをカウンターにのせてゆく。
『いらっしゃった人からお盆を手に取っていただいて席についてください』
そう言えばカウンターへと足を運ぶ部員。といってもほとんどが見知った顔だが。
「よう」
『お疲れ、若』
「まあ疲れたは疲れたが、あいつがいないとここまで練習が楽だとは思わなかったぜ」
『それはそれは』
半日ぶりに出会った若はどこか清々しそうだった。楽しくテニスができたのだろう。
「よ!未久」
「よっす!」
『丸井さんにジャッカルさん。お疲れ様です』
「お!肉じゃがじゃん!未久が作ったのか?」
『一応は、』
「超うまそうじゃねぇ?な?ジャッカル!」
「あぁ」
『そう言っていただけると嬉しいです』
ラフな格好へと着替えを終えた二人が楽しそうに席へとつく。そして次々とお盆を手にしていく。
「チッ、嫌な顔見たぜ」
「クソクソ!未久!」
『人の顔見てそれはあまりにも失礼じゃないですか?』
「なんだとっ!?」
『失礼じゃないと、そう思っているんですか?桃城武さん、向日岳人さん』
「たりめーだろうが!嫌な顔見て嫌な顔って言って何が悪ぃんだよ!」
明らかにイラつきを隠していない表情。そっちがその気ならこっちにだって考えがあるわけですよ。
『へぇ……なら、暑苦しい顔見ましたね。まったくただでさえ疲れてるのに嫌だ嫌だ』
「なんだとてめぇ!?」
『私もそちらに習って暑苦しい顔を見たので暑苦しい顔と言ったまでなんですが?なにか、問題でも?』
そういって笑った私に彼のイライラは頂点のようだ。しかしそこに割り込んだのは意外にも妖兄だった。
「ここは食事の場です。騒ぐつもりなのでしたら出て行ってもらいますよ」
「なっ?!」
「なにか、問題でも?」
先ほど私が言った台詞と同じ台詞。妖兄もあくどいことをする。
二人はしぶしぶだがお盆を手にその場を去った。
『ほんと、単細胞って嫌い』
「言ってやるな、知らないほうが幸せなこともあんだよ」
『妖兄が他人の幸せ語るなよ。容易く人の幸せ壊せるネタを五万と持ってるくせに』
「ケケケケケ」
これだから私は兄が大好きなんだよね。
オーマイブラザー!!