レンリツ方程式 | ナノ





「俺は先に行ってんぞ」
『あーい』


ドリンクを作り終えた妖兄はカゴを抱えて部屋をあとにした。そして行き違えるように入ってきたのは宝華梨々だった。


「ドリンク出来てるぅ?」
『何の話ですか?』
「はぁ?」


入ってきて早々「ドリンク出来てるぅ?」とは、随分偉いものだ。残念ながらこれからの私は今までの私ではない。いや、元々の私に戻ると言ったほうが正しいんだろうけど。


「梨々のチームのドリンクは何処って言ってんの!聞こえなかったの?」
『宝華先輩のチームなら先輩が作ってくださいよ』
「意味わかんない!」
『今まで私は氷帝のマネージャーだったのでレギュラーのものも準レギュラーのものもほかの部員のものも作ってきました。ですが今回は完全に割り振りが決まっている。ならばそこの領域を侵してはいけないと判断しましたので』
「じゃあ、梨々のチームの分のドリンクはないってこと?」
『今のところは』
「アンタねぇっ!」


全く沸点の低いお嬢さんだ。エタノール以下じゃないのか?まぁいい。その調子で醜態を晒せばいいんだ。可愛い可愛いお顔が歪んでいく様を部屋の中の監視カメラがきちんと撮ってくれているのだから。

私は時計を確認。もうすぐ約束の15分前だ。

私は冷蔵庫の中からドリンクを取り出してかごに入れていく。もちろん萩ちゃんのチームの分も。


「あるじゃない」
『は?』
「それ、梨々のでしょ?」
『これは滝先輩から頼まれていたものです。滝先輩は練習の方にも参加するのでドリンクを作ってくれと事前に頼まれていたので』
「じゃあいいわよ、それ貰ってくから」


宝華梨々はバッと私のチームのドリンクが入ったカゴを奪いさっさと部屋を立ち去った。


『ま、それも想定の範囲内だけど』


私は予備に作っておいたジャグに入ったドリンクを詰めなおした。冷蔵庫にあったのよりは冷えていないけれどそこは妥協。


『それにしても、どんどん醜態を晒してるね』


彼女が部屋に入ってきて顔を歪めて私のドリンクかごを奪っていったのはばっちり映っている。


『若とか萩ちゃんが関係なかったら私独自の情報にして脅しの材料とかに使うのになぁ。もったいない』


私は詰めなおした新しいかごと萩ちゃんに届けるかごを手に部屋を出た。


『滝先輩』
「あ、未久」
『これ、ドリンクになります』
「ありがとう」
『いえ』
「……大丈夫?」
『大丈夫だよ』
「ならいいけど。何かあったら言うんだよ?」
『うん』


みんな心配性みたい。口を開けば皆が「何かあったら言え」だから。もちろん嬉しい。けれど何かあっていちいち口を開けばそれが情報の漏洩へとつながる。情報は外へ漏らさないに限るのだ。

妖兄はそのへんをわかっている。だからブラフの時以外に余計な情報は流さない。


『ドリンク持ってきました』
「おぉ!みんな、未久ちゃんがドリンク持ってきてくれたでぇ!休憩しよか」


白石さんがそう声を出せば皆が動きを止めドリンクを取りにやって来る。


「休憩は10分といったところか」
「せやね。じゃあ10分休憩にしよか」
「未久!ドリンクくれ!」
『切原くん、どうぞ』
「赤也でいいのによー」
『気が向けばそう呼びます』
「約束だぜ!」


切原赤也くんは人懐っこい性格なようだ。弦一郎が放っておけないわけだ。


『あの、』
「ん?どないしたんや?」
『今日着替えが終わりましたらジャージを回収して洗いますので、大浴場の横に置いておくかごに入れてもらってもいいですか?』 
「ジャージ洗ってくれるんか?」
『え?洗わないんですか?』
「いや、そういうわけちゃうねんけど……」
「未久の好意だ。受け取っておくべきだろう」
「せやね……じゃあお願いしよか」
『はい。ジャージは早朝、袋に入れて部屋のドアノブにかけておきますので』
「おおきに」


白石さんはそう言って笑った。




賽を投げてみた



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