噂の転校生がやってきた次の日、学校はいつも以上に騒がしかった。廊下を歩きながら私は聞き耳を立てていた。
「聞いた?あの転校生……」
「聞いた聞いた!転校して早々男子テニス部のマネージャーになったんでしょう!?」
「ホントなの?ソレ……」
「あたし、昨日テニスコートにいるアイツ見たわよ」
「えぇ?!」
「跡部様が許したの?」
「そこまではわからないけれど……」
どうやらこの騒ぎの原因は噂の転校生のようだ。
この学校で有名なのが男子テニス部である。全国区とも言えるほどの有名校であり、その部員の数は200を超えるという。そのテニス部のレギュラーがまた人気なのだ。テニスというスポーツで全国区の腕前を持ちながら、その顔は美形揃い。
特に2年生にして部長を勤めている跡部景吾という男は絶大な人気を誇っている。
跡部財閥の跡取りにして才色兼備の跡部景吾。神は彼に二物以上のものを与えたようだ。
そんなテニス部だからこそ、規則は厳しい。特にマネージャーがそうだ。この学校の大半がテニス部に対して憧れを抱いており、黄色い声を上げる女子ばかり。その中でレギュラーにかまけることなく真面目に仕事をする人物などいないに等しいのだ。
しかもマネージャー業というのは思っているよりも辛く厳しいものだ。はっきり言ってしまえば選手よりも大変。精神的にも身体的にもだ。
だからこそ、何人もの女子がマネージャーをやめていった、という話もあるくらいである。
そんな男子テニス部のマネージャーに昨日やってきた転校生がなったとなればこれだけ騒ぎになるのも道理。
これはますます、私の興味を引き立てた。
私は行き先を教室から屋上へと切り替えた。
初夏の風が私の髪を弄ぶ。
屋上には人はおらず、聞こえてくるのは朝練をしている運動部の音。
私はフェンスまで近づくとテニスコートを見下ろした。緑色のコートに白のライン、見えるのは見慣れた白と群青のジャージ。そして飛び交う黄色いボール。
その中で一人だけ浮いているとも言える制服姿の女子。腰まである茶髪はふわふわとカールしており、私の髪を弄んだのと同じ風が彼女の髪の毛も弄んでいる。
そして感じ取った「異質」
昨日、大野さんと狩屋さんが言っていたのはコレなようだ。きっと敏感な者だったら気がつくであろう感覚。
こんな屋上からでもわかってしまうのだ。この感覚にあの彼が気づかないはずがない。
『私に助けを求めるの?ねえ、帝王(キング)』
アイスブルーの瞳と一瞬、目があった気がした。
夏風が運ぶのは