私は立海との話もほどほどにフロントへと戻ることにした。きっと今頃跡部さんが宝華梨々相手に頑張ってるだろうから。そんな途中。
「あ、未久ちゃんだC―!」
『あ、ジロー先輩。そうそう、立海のみなさん到着しましたよ。丸井さんも来てます』
「まじまじ!やったC―!ちょっと行ってくるC―!!」
『転ばないでくださいねー』
「そんなドジしねぇC!あ、未久ちゃん口あけて。ほら、あーん」
『あ、あーん?』
口に突っ込まれたのはムースポッキーのようだ。甘さとほろ苦さが口の中に広がる。
「俺にできること少ねぇけど、頼れるとこは頼って欲しいC」
『ジロー先輩……』
「約束」
『はい、約束です』
「じゃ、丸井くんのとこ行ってくるC―!」
人の笑顔というのはここまで人の心を暖かくできるのか、そう思った。だからこそ、彼の大好きなテニスを取り戻してあげたいとそう思えた。
『跡部さん、立海の皆さんを案内してきました』
「あぁ、ご苦労」
「未久ちゃんお疲れぇ」
『宝華先輩もお疲れ様です』
きっと彼女の中で私は多少口答えはするものの駒としては最適な後輩といったところなのだろう。まあ、それももうすぐ終わるのだから、せいぜい楽しむといいよ。
時刻は9時55分。外を眺めていれば1台のバスがやってきた。
『来ましたね』
来たのは勿論四天宝寺が乗ったバス。他のバス同様ロータリーに入り入口手前で停車。ただ他の学校と違うところは一番に降りてきたのが部長ではないところだろうか。
「しゃあ!一番乗りや!おぉ、跡部。久しぶりやなぁ」
「てめぇも相変わらずだな忍足謙也」
そして最後の方にのそりと降りてきた姿をみて私は顔を緩ませた。あちらも顔を上げ私を認めたようで一瞬ポカンとしたあと顔を輝かせものすごいスピードで私の方へと走ってきた。
……え?
「未久ー!あぁ!未久たい!久しぶりたいねぇ!」
『ち、ちーちゃ、ちーちゃん!く、苦しい、苦しいからはなし、離してっ』
私をその巨体でぎゅうぎゅう抱きしめるのは千歳千里。彼とも昔馴染みで弦一郎と同じように将棋で知り合ったのが始まりだ。
「何年ぶりと?もう2年は会っとらんかったばい!」
『そうだね、だから、苦しい……ッ』
本当に危ない気がしてきた。手加減なんかしてない本気の抱擁。きっと本能のままに動いているに違いない。
「千歳先輩、その子死にそうですけど」
「ありゃ、すまんばい……」
『いや……ありがとう、えっと、』
「財前光っスわ、未久さん」
『っ!?』
聞いたことのある低音。いつもは機械越しだけれども今度ばかりは違う。
彼は、善哉さんだ。
「おい千歳、蛭魔と知り合いなのか?」
「幼馴染、いや、昔馴染みたい」
「なるほどな、」
跡部さんには四天宝寺にいる知り合い、としか情報を与えていなかった。きっと今ので私の言った知り合いが誰なのかわかったのだろう。
「おぉ、すまんなぁ跡部くん。一応バスの中点検しとったもんでなぁ」
「気にすんな。遅れてるわけでもねえ」
「お、話に聞いとったマネージャーさんやね。俺はこの四天宝寺で部長やっとります、白石言います。よろしゅう」
「宝華梨々ですぅ!よろしくねぇ?」
『蛭魔未久といいます。短い間ではありますがよろしくお願いいたします』
私はさっと視線を這わせた。2名、3名といったところだろうか。まあ青学と似たり寄ったりか。
「蛭魔、こいつらを案内しておけ」
『はい』
「梨々するよぉ?」
「お前は先に会議室で茶でも準備しておけ。そこで部長会を開く。白石、30分後に来れるか?」
「あぁ、大丈夫やで」
「じゃあお茶入れておくね!」
そういって渋々といった感じだが宝華梨々は会議室へと向かった。
『こちらになります』
私は四天宝寺を2階まで案内する。
「にしてもあの梨々ちゃん可愛えかったなぁ」
「ま、まぁ小春ほどではないがな」
「ユウくんたらっ」
先ほどの忍足といったか、忍足侑士の従兄弟は完全におちているようだ。
『ここの2階のフロアが四天宝寺さんで使っていいフロアになります。部屋はお好きに使ってください。大体人部屋2〜3人部屋となっております。鍵は部屋の中にありますので』
「おおきにな。未久ちゃんって呼んでもえぇか?」
『お好きに呼んでください、白石さん』
「ほうか。なら遠慮なく」
爽やかに笑う部長の白石さん。誰にでも優しい人なのだろう。だからこそまだ何とも言えないが。
「なら一緒の部屋にするばい、財前」
「……奇遇っスね。俺も千歳先輩がえぇなと思っとたんですわ」
「よかばいよかばい!な、白石!」
「あぁ、ええよ」
「じゃあ端っこの部屋がえぇっすわ」
「ほんなら俺と謙也、師範と小石川、ユウジと小春でえぇな?」
「えぇよ」
「俺は30分後に部長会議があるさかい、とりあえずは部屋待機しとってな。ま、金ちゃんじゃあるまいし大丈夫やな」
そう言うと笑いながらそれぞれが部屋へと入っていく。
「未久さんはこっち」
『あ、』
財前さんに手首を掴まれたかと思えば財前くんとちーちゃんの部屋に連れ込まれ、導かれるがまま室内にあるソファーへと腰を下ろした。
「じゃあ、改めて話そか」
二人が身につけているピアスが照明の光を浴びて光った。
再会出会い