レンリツ方程式 | ナノ





その日は晴天だった。
雲一つない青空が広がっていて、絶好のスポーツ日和と言えるだろう。私の兄もきっと上機嫌なはずだ。

だからこそ、何かが起きるそんな予感がする。


「おはよっ!蛭魔さん!」
「おはよー!」
『おはようございます、大野さんに狩屋さん』


少し早目に着いた教室で、頬杖をつきながら本を読んでいればいつものように話しかけられる。このクラスでも明るい人に分類される二人で、こうしてよく私に話しかけてくれる。


「蛭魔さん知ってる?今日二年生に転校生が来るんですって!」
『転校生、ですか。珍しいんですよね?』
「そーなの!小中高一貫校でもって私立でしょ?外部生は蛭魔さんみたいにそれなりにはいるんだけど、転校生はホント珍しくて」
「それでね私たち気になっちゃって、職員室まで行って見てきたの!」
『へぇ……どうでしたか?』
「なんか、ねぇ?」
「不思議な感じだったの」
『不思議?』
「遠目だったからアレなんだけど、綺麗な茶髪がふわふわしてて、可愛い人だったんだけど……」
「どこか……そう、浮世離れしてるっていうか……」
『なるほど……』
「まぁ、少し見ただけだったから何とも言えないんだけどさ」
『教えてくださってありがとうございます。まだまだ、知らないことばかりで……』
「いいよっ!お互い様だし、ね?」
「そうそう!」
『私にも、何か出来ることがあれば言ってくださいね?』
「ありがとー!」
「んじゃねー!」


話が終わると私のところから離れ、今私にした話を今来たばかりのほかのクラスメイトへと話し始めた二人。

女という生き物は実に好奇心旺盛だと思う。話が絶えることはないし、この私でさえ驚かされるような噂話を持ってくる。

私にとって女友達は大事な大事な情報源である。

確かにこの年頃の女子がする噂には尾ひれやらなんやらがたっぷりとついた状態でやってくる。現実味のない噂話。しかし、火の無い所に煙は立たない。たとえ聞こえてきた噂自体が嘘だとしてもその噂には出処があり原因がある。

これだから私は表の顔をなくせないんだ。

勿論、彼女たちと一緒にいるのが楽しいのもまた事実だ。彼女たちを道具だと思ったことは一度もない。


『転校生、か』


転校生がやってくるという情報自体は既に手に入れていた。しかし接触までは考えていなかった。だから彼女たちの話は興味深かった。


『少し調べてみよっと』
「またなにか企んでるだろ」
『あれ、若。朝練は終わったの?』
「あぁ」


私が少し考えに耽っている間に隣の席の住人である日吉若が朝練を終えてやってきていた。

氷帝テニス部に在籍するテニスプレイヤーであり、昨年までは氷帝の中等部で部長を勤めていた男だ。

実は彼と私は昔馴染みで、同じクラスとして再会したときは互いに驚いたものだ。そして彼は私の裏の顔を知る数少ない人物でもある。


「で、何を企んでる」
『企んでるだなんて物騒な。考えていただけ』
「……何を」
『さっき大野さんと狩屋さんに転校生の話を聞いて、少し興味がわいたの』
「お前のことだ、転校生が来ることくらいは前からわかっていただろ」
『……まぁ、それでも昨日知ったことだよ』
「ほぅ」


そう。事前に知っていたとは言えその事実を知ったのは昨日の話。

転校というものはそう簡単にできるものではない。義務教育の場であれば別だが、高等教育機関にもなればそれは更に困難になる。試験だって受けなければならないだろうし、書類の作成も行わなければならない。そんな大事に私が昨日まで気がつかなかったというのもまた事実。

確かにそれも引っかかるのだけれど。


『楽しくなるといいね』
「お前の楽しいは、お前しか楽しくないんだよ……」
『そう?』


きっと、今私が浮かべた笑みは兄にそっくりだったと、そう思う。



その口元は悪魔のようで



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