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『夢小説、ねぇ』


家に帰り、私は今日手に入れた情報の整理をしていた。キーワードは「逆ハー補正」と「傍観主」という二つ。この二つのキーワードの共通点が「夢小説」というものだ。

夢小説。それは所謂ドリーム機能と呼ばれる機能を用いた小説のことで主に二次創作に用いられているようだ。ドリーム機能とは自らの名前を設定できる機能で、そうすることで物語の中に自分の名前を置くことができ、あたかも物語の中に自分がいるかのように錯覚できるものだ。

簡単に言えば、漫画やアニメやゲームなど本来は絶対に恋愛ができないような世界の人間と擬似恋愛を可能にした夢のような機能。そしてそれを叶える小説のことを夢小説というらしい。まあ、定義は曖昧なようだが。

そんな夢小説の中にもたくさんのジャンルがあるらしい。そのジャンルの中にあったのが「逆ハー」と呼ばれるものと「傍観」と呼ばれるものだった。

「逆ハー」はその名の通り作品の中のキャラクターのほとんど全員から好意を寄せられるヒロインが書かれているものだ。

「傍観」はキャラクターには直接的には関わらず傍からキャラクターをのぞき見ていくといったヒロインの形らしい。第三者目線からみるキャラクターたちといった感じだろうか。


『いやはや、こんなものが存在しただなんて知らなかった。いい勉強になったよ』


流石はヲタク文化の発祥の地と呼ばれる日本だ。いくら情報通とはいえ興味のないものまで調べようとは思わないから夢小説なんてものは知らなかった。


じゃあこの夢小説と宝華梨々の関係とは?


『実に非科学的でもう私の手に負えないんだけど。しかも兄弟揃って無神論者なんだからさ……もう勘弁してよ……』


この関係性を説明するにはこれまた夢小説のジャンルの一つ「トリップ」について話さなければならない。「トリップ」とはまあ直訳すれば旅行といった言葉になる。旅行といっても熱海にいったり伊豆にいったり沖縄に行ったり海外に行くのとはわけが違う。似たような旅行を挙げるのなら時間旅行に近いだろう。所謂タイムトラベルだ。

つまり夢小説でいう「トリップ」とは今自分がいる世界から次元や時間を飛び越えて漫画やアニメといった世界に行くということを指すらしい。

またこの「トリップ」と呼ばれる小説にもたくさんの種類があるわけだけれど、前に宝華梨々が出した「逆ハー補正」や「傍観主」といった単語が出てくるトリップ系の小説が存在した。それが、


『逆ハー陥れ……えげつないねぇ』


この小説の内容を大雑把に説明するのならばこうだ。

とある漫画があるとしよう。この漫画の世界にこの漫画が存在する世界から一人の女の子がやって来る。この女の子はその漫画が好きで好きで漫画内のキャラクターに好かれたいと願っていた。それを神と呼ばれる奴が願いを叶えて漫画の世界へと飛ばす、トリップさせるというもの。

しかもトリップさせる前にいくつかの特典をつけて神はトリップをさせるのだ。まあ見知らぬ世界へと行くわけだからそれなりに準備がなければいけないのだろうが。

その特典の中に「逆ハー補正」というものが存在するのだ。

そしてその女の子は神により逆ハー補正、つまりその漫画の世界で逆ハーとなるように設定をつけてからトリップしてきているわけだ。

そしてこの逆ハー陥れと呼ばれる夢小説の恐ろしいところは、こうだ。

その漫画の世界にとっての日常の中にやってくる「逆ハー」という補正をつけた女の子が現れることによってその漫画の世界はバランスを崩してしまうのだ。そしてそれを傍から傍観する人……それが「傍観主」と呼ばれるやつだ。もともとは所謂モブ、脇役のポジションにいたとされる「傍観主」がその「逆ハー補正」をつけた女の子がやってきて崩れたバランスを直すために「傍観」を止めて「逆ハー補正」をつけた女の子を陥れて存在を消す。そうすれば世界のバランスはもどる……。

といったファンタジーMAXな内容なわけだけれど。


『こうでもしないと、辻褄が合わない』


さて、ここからが本題だ。

今回の件、不可解な点が多すぎる。100人を超える人が一人の女に対して恋愛感情を抱く点。ポッと出のようなパーソナルデータ。まるで、今まで存在していなかったかのような。そして「逆ハー補正」や「傍観主」といった言葉を日常から口に出すという点。なにより彼女自身に感じる違和感。

この点から導き出せる唯一の答え。


『宝華梨々は、この世界にトリップしてきた人間である』


きっとこれだけの答えを聞けば私の頭の心配をされるだろう。しかし集めた情報から算出すると可能性はこれしかないのだ。


『本当は頼りたくなかったんだけどなあ……妖兄のこと』


私はプライベート用のケータイを取り出し、メールを一つ作成し送信した。




これが夢ならばいいのに




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