レンリツ方程式 | ナノ





放課後の部活。私がドリンクを作り終えた頃合にちょうどよくやってきた宝華梨々はレギュラーのボトルとタオルを手に意気揚々と部室を出ようとした。

そこに、私は声をかけた。


『あの、宝華先輩』
「なぁに?」
『何故先輩はドリンク作りなどをなさらないんですか?洗濯や掃除も』


あくまでも気弱そうに尋ねる。


「なぁに?文句でもあるのぉ?」
『いえ、文句といいますか、マネージャーなのにマネージャーの仕事をしてないといいますか』
「梨々はいーの!梨々が応援すればみんなやる気になるんだしぃ?それでいいじゃない」
『そ、そんな。だったら別にマネージャーじゃなくたって……』
「アンタ、頭悪いんじゃないの?少し考えればわかるじゃない。マネージャーの方がみんなに近づけるからよ!ま、そんなことしなくたってみんなは梨々の虜だけどねッ」
『そんな理由でっ』
「あーもう!うるさいわね!アンタは梨々のために裏で頑張ってればいいの!お姫様は梨々だけでいいの!せっかく逆ハー補正もつけて可愛くしてもらったんだからね!」


今の単語は、何?

私は聞きなれない単語を脳内で反復させた。

“逆ハー補正”といったか?逆ハーは逆ハーレムの略。つまりハーレム状態の逆だから。男一人に女がたくさんではなく女一人に男がたくさん。たしかに今の彼女の状態と言える。じゃあ逆ハー補正とはなんだ?逆ハーに補正があるのか?そんな馬鹿な。


「もしかしてアンタ、傍観主とかじゃないでしょうね?」
『は?』


また聞きなれない単語だ。傍観はその事柄に関わることなく傍から見ていること。それの主?だめださっぱり意味がわからない。


「まあなんにしろ、変なことしてみなさいよ。氷帝にいられないようにしてあげるから!あはははは!」


宝華梨々は高らかに笑うと部室をあとにした。


『これは、調べ甲斐がありそうだな』


私は思考を巡らせながらジャグとコップとタオルを持って部室をあとにした。


坂下先輩やほかの先輩、そして同輩の協力もありコート上でのマネージャー業が早くも終了した私はとりあえず部室へと戻ることにした。

無駄に立派な部室。そこにはこれまた無駄に立派なソファーが置いてある。そして今そこには人が寝ていた。


『え?』


体を丸めて眠っている金髪の少年。あれは、芥川慈郎では?


『えと、芥川先輩?』
「んー誰だC―」
『あ、蛭魔未久です』
「んあ?んーここ座って」
『え?あ、はい』


言われるがままソファーに座る。すると太ももに重み。


『え?』


見れば私の太ももには芥川慈郎の頭が。所謂膝枕状態。


『え、あ、芥川先輩??』
「ジロー」
『え?』
「ジローって呼んで欲しいC―」
『えと、ジロー先輩ですか?』
「そうそう!」


嬉しそうに笑うジロー先輩。その笑顔はふんわりと温かなものだった。


「未久ちゃんがいるなら部活出よっかなー」
『え?』
「俺、アイツ嫌いだC―……」


ジロー先輩が嫌いだというアイツが誰なのかはすぐにわかった。宝華梨々のことだ。跡部さんが言っていた。芥川慈郎が部活に顔を自主的に出さなくなったのは宝華梨々が来てからだと。それまでもどこかで眠りこけて部活に遅刻することはあったらしいが隠れるようにして部活に訪れないのはこれが初めてらしい。


『ジロー先輩は、テニス、好きですか?』
「大好きだC―っ!」
『そうですか』


どうやら事は急を要したほうがよさそうだ。




目先の偽りと真実



―――――――――
悪女との関わりが短かったのでジローちゃんとのシーンを詰め込んでしまった……読みづらいな……反省。



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