レンリツ方程式 | ナノ






午前10時。一番遠くである四天宝寺の面々が帰る時間帯だ。バスに荷物を詰めてゆく。私はそれを手伝う。


「最後までおおきに、未久ちゃん」
『こちらこそ、白石さん』
「あぁ、ほんまにえぇ子やなぁ!お持ち帰りしたいわぁ!」
「浮気か?!死なすど!」


四天宝寺はやはり大阪の学校だけあって楽しげだ。きっと笑いが絶えないチームなんだろう。でもその中に光がいるのがやっぱりちょっとだけ以外で。でもそれがまた面白かったりして。


「なぁ、未久ちゃん」
『なんですか?』
「メアド、交換せぇへん?」
『メアドですか?いいですけど』


白石さんがケータイを取り出し、私もポケットからケータイを取り出して赤外線通信をする。電話帳に新たに白石蔵之介が追加された。


「テニス辞めても、試合くらいは見に来てや!全国大会、絶対にでるからな!」
『はい、是非』


白石さんは最後まで白石さんだった。人が嫌がることはしない(あのエクスタシーは別だが)そして人の感情に敏感で部長という立場にはこれ以上ない適任。何度も同じことを言っている気がするけど、それほどにできた人物。

跡部さんとも手塚さんとも幸村さんとも違うカリスマ性。


「あ、あの、」
『あ、忍足謙也さんと一氏ユウジさんですよね』
「お、おん」


おずおずと白石さんの影から出てきたのはものの見事に逆ハー補正にかかっていた二人組だった。申し訳なさそうに眉を下げて気まずそうにこちらをチラチラとみている。


『言いたいことがあるなら早いとこお願いしますよ。時間は有限ですから』
「「スマンかった!」」


二人は同時にそう叫ぶと頭を下げた。


「ホンマすまんかった……いくら騙されとったとは言えろくに話を聞かずに勝手に自分のこと悪者扱いにしてもうて……」
「謝って許されることやないってのはわかっとる!でも謝りたかったんや……っ」
「よーわかっとるやないですか、先輩ら」
「「ざ、財前っ!」


何故かそこに口を挟んできたのは光で。どこか冷たい目で自らの先輩であるふたりを見つめた。


「許されるわけないやないですか。ヘタしたら先輩ら、犯罪行為に及ぶところやったでしょ」
「「う」」
「先輩らは青学の奴らと違うて未久に実害は及ぼさんかったですけど」
『光、もういいよ』
「未久が良くても俺が良くないんスわ」
『光、』
「少なくとも俺は未久のこと、大事やと思っとる。大事な奴が少しでも傷ついたんや、そう簡単に許せるわけないやろ」


そう言う光の目には後悔の念が浮かんでいた。きっと光は私が倉庫に閉じ込められたときのことを思い出しているのだろう。


「財前、自分もしかして、」
「謙也さんは黙っとってください。うざい」
「なっ!?」


いつもは冷めているとはいえ、やはり関西人なのかツッコミは実に鋭かった。

そして光がごそごそとポケットの中から折りたたまれた紙を取り出して、私へと差し出した。


「コレ、」
『……メアドと電話番号?』
「おん。通話はスカイプでも出来るけど、緊急時やったらやっぱケータイやろ?あと、見りゃわかるやろうけど上がケータイ、下がパソコンのメアドや」
『うん。帰ったらメールする』
「あと、コレ」
『CD?』
「言ったやろ?歌って欲しいって」
『い、言ってたけど、本気だったんだ……』
「とりあえず、それは俺の作ったやつやから。聞くだけ聞いてや」
『うん』
「……じゃ、」


光はそれだけ言い残すとそそくさとバスに乗り込んでしまった。


「まだまだ青いたいね」
『ちーちゃん』


クスクスと笑いながら私に体重をかけるのは千歳千里。ちーちゃんのふわふわの髪の毛が頬に当たって擽ったいのだけれど。


『青いって、なんのこと?空?』
「ま、そぎゃんこつばい」
『なんか、うまく逃げられたきがするけど……』
「気にせんね!にしても、まだ帰りたくないばい」
『何を餓鬼みたいに』
「大阪と東京は遠いばい。また暫くは未久に会えん思うち」
『そりゃ、ねえ』
「はあ、未久はむぞかね」
『むぞ……いや、それはないわ』
「いんや!未久はむぞか!むぞらしか!」
『ちょっと黙れトトロ』


いきなり大声で捲し立てるちーちゃんの口を手で塞ぐ。


「ふぉふぉろたい?(トトロたい?)」
『もう、いい。疲れる』
「……未久」
『なに?ちーちゃん』
「俺は未久の味方であり続けるけん、いつでも頼ってきなっせ」
『うん』


私が頷けば満足したのか笑ってわしゃわしゃと乱暴に私の頭を撫でた。一通り私の頭を蹂躙するとからんころんと鉄下駄を鳴らしながらバスへと乗り込んだ。


「そろそろ時間だな」


宿舎内から出てきたのは他の3校の部長と忍足侑士だった。忍足侑士は忍足謙也となにやら言い争っているようだ。


「白石」
「なんや、跡部くん」
「次に会うのは、全国だぜ?あーん?」
「せやな。去年は負けてしもうた、今年はそうはいかんからな」
「フッ」
「じゃあね、白石」
「幸村くんも、元気でな」
「お互いに、油断せずに行こう」
「せやね、手塚くんも」


部長同士の激励の仕合が終わればバスは出発。既にヘッドフォンをして自らの世界に入り込んでいる光が窓ガラス越しに見えて。それを見ていたら光と目があった気がした。



サヨナラの音




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