レンリツ方程式 | ナノ




「おい、神。未久を見てたってどういうことだ。そしてその手を退けやがれ」
「未久の兄の蛭魔妖一か。俺はお前もお気に入りだ」
「ッ」


楽しげに笑う神にされるがまま私はなでられていた。


「どこの世界に飛ばしてやるか、俺も悩んだんだ。コイツの要望通りってのもなんか癪だったってのもある」
『でもここは、宝華梨々が望んだ世界、なんでしょ?』
「半分な」
『え?』
「パラレルワールドってしてるか?」
『まあ、なんとなくは』
「ここは宝華梨々の望んだ世界の言わばパラレルワールド。といってもこの世界からすれば宝華梨々が望んだ世界の方がパラレルワールドになるわけだが」
「ぱ、パラレルワールドとか、何の話よ!」
「宝華梨々にわかるように説明すれば、この世界は“テニプリ”の原作の世界じゃねえんだ。所謂“テニプリ”のキャラクターはいてテニスもしてるし中学ん時の結果もまあ原作通りだろうが、その世界を構成するものが違う」
「は?意味わかんない」
「もっと簡単に言おう。ここは“テニプリ”だけのせかいじゃねぇんだよ」
「!」
「他の奴らにわかるように説明すればだな。この世界でよくテレビ中継されてるスポーツはなんだ?未久」
『え?テニスと野球とアメフトはシーズンが始まればテレビ中継されてるけど』
「あめふと?」
「宝華梨々、お前の世界でのテレビでよくやってたスポーツは?」
「サッカーとか野球とかじゃないの?」
『サッカーなんてテレビでやるんだ……ワールドカップしかしないから詳しくないけど』
「そういうことだ」


神は空中に絵を描き始めた。


「宝華梨々の望んだ世界をAとして、この世界がBとする。そしてもう一つCの世界があったとしよう」
『うん』
「Aはテニスが盛んで常にテニスが中心。他のスポーツがないわけじゃねえがよく取り上げられているのはテニスだ。そしてBはテニスとアメフトに力が入ってる世界。どちらも高校生に世界を目指させようとしてるな」
『確かに、』
「Cの世界はアメフトが盛んな世界。秋大会にもなれば必ずどこかのテレビ局がその模様を伝える。観客だって大勢だ」
『うん』
「宝華梨々は元の世界でAの世界を夢に見ていた。しかしAの世界のパラレルワールドにBという世界があった。Aにいた主要キャラ、つまりテニス部部員がいる世界でもあるわけだ。そしてCというせかいのパラレルワールドもまたBという世界。つまりこの世界はAの世界とCの世界が混合している、二つの世界のパラレルワールドなんだ」


話がやけに壮大で今もなんとかついていけているといった状態だ。果たしてこの中でこの話についていけているのは何人いるのか……。


『でも、』
「?」
『じゃあ、なぜ宝華梨々を、』
「ここからが本題。俺は前から見ていた。未久を」
『?』
「お前なら、この宝華梨々をうまく世界から消してやれるんじゃねえかなと思ったんだ」
『!』
「な、なによ、それ!」
「そんな俺の思惑通り、未久はこいつの存在を世界から消すように働きかけた」


ほら、と神が宝華梨々を指差す。そこには少し透けている宝華梨々の姿があった。そして他のみんなも宝華梨々の姿を見て驚きの声を上げる。


「世界には少なからず存在理由ってのがある。宝華梨々は俺が付けた“逆ハー補正”でなんとか存在理由を保っていた。まあ”逆ハー補正”なんかなくとも、まともに生きれば問題はないわけだが。でも今はどうだ?アイツは今一人だ。信じてくれる人が誰もいない」
『存在理由、』
「元の世界でもほとんど一人だったが、あっちには親という存在があった。しかしこっちに血の繋がった人物なんていない。血のつながりってのは、人が思ってるより厄介で強いもんだ」
『じゃあ今宝華梨々はこの世界での存在理由を失いかけているから、透明になっているの?』
「そういうこと」


神は私の頭から手を離すと足音を立てることなく宝華梨々へと近づいた。


「なんで、梨々が、」
「まだわかんねぇの?お前は存在を否定されてんの」
「なんで?!なんで梨々はこんなに可愛いのに!どうしてっ」
「可愛いとか本気でおもってんの?今のアンタの顔、マジでひどいぜ?」


顔立ちは確かにいいのかもしれない。目鼻立ちのバランスがいいし肌だってきちんと手入れがされているのだろう。でも、顔というのはその人の内面を表してしまう。目は口ほどのものを言うというのもこの1つだ。


「そ、そうよ!生贄が足りなかったとかでしょ?梨々も思ってたの!今からそこの蛭魔未久を殺すわ!そうすればっ!」
「アレは俺のお気に入りだっつってんだろ。それ以上言うと苦しみの中で消すぞ」


神が低い声でそういうとその影響なのか室内の温度が下がった気がした。


「蛭魔未久はれっきとしたこの世界の住人だ。それどころか、この世界では重要な役割を果たしている。そうだろ?蛭魔妖一」
「……あぁ。こいつは、未久は俺にとってなけりゃならない存在だ。代用もねぇよ」


神はそう言ってニヤリと笑った。それこそ妖兄のような笑みを。


「ッ!ねえ助けて!侑士っ!それにがっくん!亮!チョタァ!」
「「「「ッ」」」」
「梨々のこと好きでしょ?ね?こんなに可愛いんだもの!そうでしょ?英二、武、薫!」
「お、おれは、」
「消えたくなんてない!梨々はお姫様なの!みんなに愛されるべきお姫様!なのに、なのにぃ!」


うわごとのように叫び続ける宝華梨々をただただ見つめ続けるだけ。


「どうだ?醜いだろ?」
「ッ」
「俺が補正をかけたからっていう理由もなくはない。が、それでもだ。あんなに醜いものを好きだと思ったお前たちの心、いっぺん見直すべきだろうな」


どこか愉快げに、神はそう言った。


「謙也ぁ、ユウジィ……」
「「ッ」」
「梨々は、梨々はぁ、お姫様なのにッ!」


そうして、宝華梨々は完全に消えた。




終演閉幕



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