朝。
アナログである腕時計に視線を移す。時刻は午前6時30分14秒。朝食の時間は既に開始している。といっても今日は練習があるわけでもない。あとは帰るだけだからとゆっくりしている人が大概。今食堂にいるのは弦一郎と妖兄、そして柳さんと乾さんに白石さんくらい。
私も今日ばかりはしっかりと朝食を摂ることにした。なにせ、妖兄の視線が痛いもので。
といっても傍らにはノートパソコン。柳さんと乾さんが編集した映像を確認しながらの朝食だ。
「どうだ?俺たちが編集したものは」
『完璧ですね。流石、としか言いようがありません。ありがとうございます』
「ふむ、これであの宝華梨々を追い出せる確率は100%だ」
そう言って味噌汁を飲み干し箸を置く乾さん。
『はぁー長かったなあー』
約1ヶ月といったところか。私が男子テニス部に入部してから。
予想以上に長く予想以上に疲れそして、予想以上に楽しかった。
「未久ちゃんは、テニス部やめてしまうんか?」
『それ聞くの、白石さんで何人目でしょうね』
「ははっ、他にも聞く奴おったんか」
『えぇ』
笑う白井さん。だけどどこか寂しそうにも見えた。
『あ、妖兄』
「あ?」
『ワックス、持ってるよね?』
「ああ。後で部屋に取りに来い」
『ありがと』
「未久ちゃん、ワックスなんてつけるん?」
びっくり、といった表情で白石さんが私を見つめてくる。
「ケケケ、こんな性格してる俺の妹の容姿がこんなハズねぇじゃねえか」
「実は言うと俺も一瞬わからなかったからな」
「幼馴染の真田くんでもわからんって、どういうことなん?」
「興味深いな」
「是非、聞かせてもらいたい」
何故か乗じてくる乾さんと柳さん。
『じゃあ、特別先行上映ってことで』
私は前髪を掻き上げた。そして目の前にいる柳さんと乾さん、そして白石さんを見やる。
「え、えくすたしーやな……っ」
「これは興味深いデータだ……」
「なるほどな……」
「やはりこっちのほうが見慣れているな」
「ケケケケケ」
反応は三者三様とでも言うべきか。あえて高笑いをしている妖兄は無視することにする。
気がつけば7時になりそうで、続々と食堂へと入ってくるテニス部部員。
『あと、1時間……』
「未久ちゃん」
『白石さん?』
「食器の片付けとかは俺らがしとくから、準備しとき」
『で、ですけど、』
「この4日間、ほんま頑張ってくれた未久ちゃんへの恩返しや。受け取ってくれへんと困るんやけど?」
『白石さん……』
優しく微笑む白石さん。
そう思えば白石さんには助けられてばかりだなと思った。さりげなく他人のフォローが出来て周りを本当によく見ている。全国レベルの部長の力量がしっかり備わってる人物。
『きっと、白石さんはモテるんでしょうね』
「きゅ、急にどないしたん」
『ふと思っただけです。私がこんなことを言うのもなんですけど、四天宝寺はいいチームですね』
私はそれだけ言い残して食堂をあとにした。後ろから「おおきに!未久ちゃん!」と聞こえてきて、それだけで嬉しくなって。
随分私も、絆されたんだなって。
友情の赤い糸