レンリツ方程式 | ナノ






「ごめんなさいっ!本当にごめんなさいっ!」
『そんなに謝らないでください、先輩』


翌朝。氷帝に通う2年生という布川南さんを訪れればいきなり謝られてさすがの私でも焦った。よくよく話を聞けば跡部さんにこってり絞られたようだ。


『ですが、詳しくお話を聞いても?』


布川南さん。氷帝学園高等部2年。クラスは忍足侑士や今回の元凶である宝華梨々と同じ。氷帝学園へは初等部から通っており、テニス部のファンクラブ会員だったらしい。忍足侑士が好きで中等部時代に同じクラスだった時にそれなりに仲良くなったがその当時のファンクラブに忠告を受けそれ以来忍足侑士とは関係を絶ったとのこと。

それでも諦めきれなかった今年、忍足侑士と同じクラスになった布川南さんは再び仲良くなろうと勇気をだして挨拶から始めたそうで。なんとか日常会話までは普通にできるようになったらしい。

しかし転校してきた宝華梨々。忍足侑士は宝華梨々に骨抜きになってしまい、布川南さんと忍足侑士との関係は再び衰退。それでもめげずに頑張ったのだが、ある日忍足侑士に「ほんま邪魔せんといてくれる?今、梨々と話しとんねん」と一蹴。プラマイゼロどころか忍足侑士との関係はマイナスへと傾いた。

そんな時だったという。宝華梨々から連絡を受けたのは。

合宿で男子テニス部のいない氷帝は妙に静かだったという。そんな中宝華梨々から入った連絡は傷心中だった彼女にとっては願ってもない頼みだったという。


「ねえ、合宿に来てみない?」
「えっ」
「人手が欲しいのよ。確か、侑士のことが好きなのよねぇ?」
「っ」
「会話はできないわ。それに姿を現してもだめ。それでも侑士のためになれるのよ?どう?」


忍足侑士のことが好き。でも、迷惑はかけまいとあれ以来関わりを再び絶った。しかし忍足侑士のために働けるのならと、布川南さんは宝華梨々の頼みを受けたのだという。

昨日の午前の練習が始まった時刻。別荘の表門には人一人いない状況。宝華梨々の手助けを受け別荘に侵入した布川南さんは厨房へと向かい、言われるがままに昼食作りをしたとのこと。

元々両親が共働きで弟や妹を3人も持つ家の長女らしい布川南さんは手早く、昼食の時間に間に合うように人数の3倍のおにぎりを握ったという。

そして皆が戻ってくる前に宝華梨々の隣の空き部屋に姿を潜め、午後の練習を窓から眺めていたそうだ。

しかしいくら家事が手馴れてるとは言え30人分もの食事を作るのは大変。これは私も同感できることだ。だから夕食は冷凍牛丼を温めて出したとのこと。その時のゴミの処理中に雅治さんに見つかり、これまた宝華梨々に見つからないように跡部さんに突き出されたとのことだった。


『大変でしたね』
「わ、私のこと、責めないの……?」
『貴女は被害者だと、私は思いました。あくまで貴女の行動は忍足侑士を思っての行動でしょう?宝華梨々のように欲にまみれた行動じゃない』
「っ」
『確かに、すべてが正しい行動だったとは言えません。ですが貴女のおかげで部員の皆さんに食事が出されたことは事実ですから』
「はいっ」
『跡部さんには詳しいことは伏せつつもフォローを入れときますから、心配しないでください』
「あ、ありがとう……っ」
『ただ、宝華梨々にはバレたことは内密に』
「はい、もちろんです」
『なら、よかったです。少し早いですが朝食をどうぞ。食器は午前の練習が始まってから片付けていただけると嬉しいです』
「はい」


私が布川南さんの部屋を出れば、そこには妖兄が立っていた。


「時間、あるか?」
『まあ、大方の準備は終わってるけど』 
「来い」


妖兄に連れられるがままたどり着いたのは妖兄と弦一郎が使っている部屋。弦一郎は朝練のため今はいない。


「昨晩の宝華梨々の部屋の音声だ」


そう言うとデスクに置かれたパソコンの再生ボタンを押す妖兄。流れ出す宝華梨々の声。



「もしもし?梨々だけどぉ?ちょっとヤって欲しい女がいるの。うん、まあ顔は微妙だけどさぁ……え?梨々?まあ、ご褒美になら考えてもいいかな?お金は渡したからいいでしょ?お金も渡してヤれるんだからいいじゃない。え?悪女?違うわよ、梨々はぁ優しいの!ウフフ」



『これ、』
「今日は絶対に一人になるんじゃねえぞ」


妖兄がマジでキレている。いつもは大声で怒鳴り散らしている妖兄だが本気で怒ると静かになるタイプなのだ。

この音声が教えてくれていること、それは私のレイプ予告だ。宝華梨々は合宿前から男と関係を持ち、補正で賄われている高校生が持つにしては多過ぎるほどの資金を餌に頼み事をしているらしい。

果たして何人の男がこの合宿所に現れるかは知らないが、ここまで来ると本当に犯罪だ。ま、そんなこと私も言えないのだけれど。


「あの糞アマ、」


妖兄はカタカタとパソコンで情報収集しているようだ。えげつない映像が次々と画面に現れては消えている。

きっと宝華梨々がその電話の相手と関係を持った時の映像を探しているのだろう。私はそんな映像見たくないのだけど。

でも今日は練習最終日。今日は一日試合が組まれている。2つコートのある場所が4つ。一気に行われる試合は8試合。誰かしらは暇だろう。


『妖兄』
「あ?」
『大丈夫だよ』
「……あぁ」




暗雲立ち込める


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -