宝華梨々、16歳。両親はすでに他界しており現在氷帝近くのマンションに一人暮らしをしている。誕生日は2月2日、血液型はB型。編入試験は5教科で470点とそれなりの好成績を収めて編入、転校してきた。
とまあ、これくらいであれば誰だった調べられる。こんなものはただのパーソナルデータにしか過ぎない。
私が知りたいのはそこじゃない。もっと人の内部。どんな人にも他人には入ってきて欲しくないラインというものがある。私が知りたいのはその先なのだ。
何故両親は他界したのか。何故それにもかかわらずマンションにひとり暮らしができているのか。何故氷帝に転校してきたのか。ではその前の学校は?その前の学校ではどんなことをしていたのか。友人関係、両親以外の家族・親戚関係は?
そう、そこが出てこないのだ。
出てくるデータはいくらでも捏造できる部分に過ぎない。名前だって誕生日だって血液型だって今の住所だって。でも、過去は変えられない。
彼女の情報はどこか変。いうならば『今までいなかった人物がポッと出てきた』ような情報しか出てこないのだ。
保護者として記載されてる叔父名義の人物にも連絡をつけてみた。しかし『おかけになって番号は――』と返されるばかり。これは、明らかにおかしい。
『ふぅ……』
私はかけていた眼鏡を外しデスク上に置いた。伸びをしながらベランダへと出た。
少し郊外ではあるがそこに広がるのは日本の都市である東京の夜景。周りは住宅街であるため騒音は無い。
私は手すりにもたれかかった。
『なーんか、嫌な予感がするんだよね』
多くの情報を扱っている私は危険と隣り合わせであることに違いはない。下手すれば後ろから刺されることだってあるかもしれない。そういうことを私はしている。
でも、私には“絶対的自信”があった。あらゆる情報を手に入れてなおこの社会を生き抜いていく自信が。
そんな私が今、少なからず不安を抱いている。
『妖兄に笑われちゃうな……』
思い浮かべるのは実の兄。
『さーてと、もう一仕事と行きますか』
私は室内へと戻り、再びデスク上にある眼鏡をかけてパソコンへと向かった。
思考思案を混沌へ