レンリツ方程式 | ナノ





「フン、予想以上に早く見つかったわね」


時刻は夜の10時だった。一人部屋を与えられているマネージャーたち。跡部家の別荘ともあって部屋は防音。彼女がどんな声を上げても聞こえはしない。

先ほどまで忍足侑士と向日岳人の部屋でトランプをしていた宝華梨々は満足げに部屋に戻ってきたものの、今日の出来事を思いだし顔をしかめた。


彼女の今日の計画はこうだった。

朝早くに蛭魔未久を倉庫に閉じ込め、その日の練習は蛭魔未久無しで乗り切る。昼食も夕食も連絡を取っていた同じクラスの女子である布川南に任せることで回避。彼女自身はろくな仕事をせずにいつも通り黄色い声援を送る。

夕食時になっても姿が見えないと探し始めるのに乗じて誰よりも早く蛭魔未久を発見。心配そうに蛭魔未久を見ることにより「いい子」と思わせる。なんて「優しい子」なんだと。

その際蛭魔未久の体調など、宝華梨々には関係のないことだった。

しかし宝華梨々の思惑とは裏腹にいつの間にか発見された蛭魔未久。彼女の知らぬところで進んでいた物事に彼女は内心腹を立てていた。


「ほんと、この合宿が始まってから生意気になったわ、あいつ」


あいつとは言わずもがな未久のことである。

宝華梨々は未だに勘違いをしている。蛭魔未久という存在が根暗な女子であると。イケメンに囲まれ調子に乗り自分に口答えをし始めたのだと思っているのだ。そして蛭魔未久もまた自分と同じようにトリッパーなのだと。

しかしそれは彼女の思い込みである。

蛭魔未久の本性は未だに陽の光を浴びておらず、隠されたまま。調子に乗っているのは明らかに蛭魔未久の方ではなく宝華梨々の方であり、口答えなどではなく正当な意見なのは言うまでもない。そして蛭魔未久は宝華梨々と違いこの世界の異物などではない。むしろこの世界を構成するにあたって重要なピースである。

蛭魔妖一の妹にして、その蛭魔妖一を支え続けた妹。不器用な兄以上に不器用であり自己中心的と思わせ実は他人思いである少女。

宝華梨々とは存在価値が根本から違うのだ。

それに宝華梨々は気がついていない。


「でも脱水症状になってたとか言ってたわね。あのまま死ねばよかったのに。そうすれば奴の補正も全部消えてみんなみーんな梨々に夢中になるのに」


あーあ、と声をあげる宝華梨々。その顔は欲にまみれていた。


「てか、本当に補正が中途半端で嫌になるわ。やっぱり3人じゃ足りなかったのね」


この世界に来るときに捧げた生贄。宝華梨々のエゴで命を落とした3人の少女。


「でもまあ、お金はいっぱいあったしぃ?合宿が始まる前に男釣っといて良かったわぁ」


きゃはは!と甲高い声を上げる宝華梨々はケータイを取り出し誰かに連絡を入れた。


「もしもし?梨々だけどぉ?ちょっとヤって欲しい女がいるの。うん、まあ顔は微妙だけどさぁ……え?梨々?まあ、ご褒美になら考えてもいいかな?お金は渡したからいいでしょ?お金も渡してヤれるんだからいいじゃない。え?悪女?違うわよ、梨々はぁ優しいの!ウフフ」


自らの髪の毛をくるくると弄りながら楽しそうに会話をする。


「じゃあ明日ねぇ。うまくやってくれないと困っちゃうんだからぁ」


ピッと通話を切るとまた楽しげに広角を上げる宝華梨々。


「全て明日奈落に落としてあげるわ、蛭魔未久。でも感謝して欲しいわ、ヤってもらえるんだからね!キャハハハハ!」


部屋に木霊する高笑い。

それを聞いているものなどいない。ただ1人を除いては。



思惑


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