レンリツ方程式 | ナノ






初めて見た時から、気になっとった。



俺と柳生は走った。階段を駆け下り外へと飛び出す。


「しかし仁王くん。屋外にある倉庫の場所なんてわかるのですか?」
「いくつかはな。ただそれが全てとは限らん。走るぞ」


走った。とにかく走った。幸村たち三強が作る練習メニューのときより、大会の試合なんか比べ物にならないくらいに。


「柳生」
「なんですか」
「もし、未久がいなくなったのが誰かさんのせいだとして。人を隠すとしたらやっぱし人気のないところかのう?」
「単純な人の心理としてはそうだと思います」
「じゃ、こっちぜよ」


夜中に暇になって外をブラブラ歩いとった時に見つけた場所。暗くてよう見えんかったがたしかに建物じゃった。小さな建物、倉庫のような。

宿舎の裏、低木に囲まれたそこは宿舎のせいもありほとんど死角。宿舎内にある窓からも確認できない場所。余程のことがない限り訪れんような場所。


「こんな場所が……いえ、こんな場所に建物が……」


柳生は驚いたように立ち止まり建物を見上げる。俺はすぐさま建物に近寄る。


「鍵がかかっとる……っ」
「なんですって……!今すぐ鍵をッ」
「そげな余裕ないッ!柳生、俺のケータイ使って幸村か蛭魔に連絡しんしゃい!」
「は、はい!」


柳生にケータイを投げ渡す。俺は目の前の分厚い扉を叩いた。


「未久ッ!未久ッ!返事しんしゃいッ!未久ッ!!」


ガンガンと扉を叩く。ビクともしないその扉。手が痛いのなんか気にしてられない。


『ま……さ、ん』
「ッ!未久ッ!?」


かすかに聞こえた小さな声。俺は扉を叩くのをやめ耳をすませた。


『まさは……さ……』
「未久!しっかりするぜよ!今助けちゃるからッ」


中から聞こえるのは聞き間違えることのない未久の声。

後ろにいる柳生はまだ電話をかけている。だがそれを待つ余裕なんてない。

俺はポケットに入れていた変装道具の1つであるヘアピンを取り出した。目の前の扉を固く閉ざしているのは南京錠。ヘアピンの先を差し込み中の形を確認する。そして奥に入り込めるように手で変形させてさらに押し込む。

カチャカチャというばかりで開かない鍵に気ばかりが焦る。


「ッ!開けッ!!」


カチリ、と音がした。


「未久ッ!!」


扉を開けば中から出てくる蒸し暑い空気。外だって十分暑いのにそれ以上だった室内。こんな室内に何時間も……。

倉庫内の真ん中、扉を開いたすぐ先に未久はうつ伏せに倒れとった。


「未久ッ!しっかりしんしゃいッ!」
『はっ……まさ、は、さん……』


小さくか細い声が俺の名を紡いだ。

俺は未久を横抱きにし倉庫を飛び出した。


「柳生!連絡はっ?」
「先程連絡が取れました!蛭魔さんには既に連絡済みです」
「医務室に急ぐぜよ!」


さっきまであった意識も俺の腕に抱かれ失ったようでぐったりしている。

未久にそんなに触れたことはないが明らかに熱い身体。頬も赤くなっとって汗の量も半端じゃない。

先を走る柳生が医務室の扉を開ける。飛び込めば蛭魔の姿。そして不二や河村、大石の姿が。


「仁王くん!すぐにベッドに寝かせてくれっ」


大石の言うとおりに抱きかかえていた未久をベッドへ横にする。すると大石はすぐさま処置を始めた。そう思えば大石は医者になりたいとか言うとった。だからだろう。

大石の声が飛び交うままに動く不二と河村を視界の隅に入れながら俺は苦しげに瞳を閉じる未久を見つめた。



火照り焦り憤り




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