俺は白石と跡部と外を走り回っていた。
「なして、こげに広かねぇ」
無駄に広い屋外を走り回るのは楽じゃない。しかも今日は真夏日。南の方出身だといっても暑さに強いわけではない。
どうするべきかと悩んでいたその時、ポケットに入っていたケータイが震えた。俺の斜め後ろを走っていた跡部のケータイもほぼ同時になったようだ。
「もしもし妖一?どげんしたと?」
「未久の姿を見つけた。屋外にある倉庫のどこかだ。見つけ次第救護室へ連れて来い」
どうやら2台のケータイを使って俺と跡部同時に電話をかけていたようだ。
「どないしたんや?」
「未久の居場所が大まかに掴めたばい。跡部!屋外にある倉庫の数はいくつばい?」
「全部で5つだ」
「片っ端から当たるしかないな」
「ここから一番近いんは?」
「こっちだ」
跡部が走り出しそれに俺と白石がついていく。たどり着いたのは第1コート脇にある倉庫。
「鍵がかかっとるんか、」
「どけ、俺様を誰だと思ってる」
そう言って取り出したのは鍵。
「マスターキーなんか?」
「あぁ」
跡部はて早く鍵を差し込み開ける。
「未久ッ!いたら返事するばい!!」
返事はない。白石が率先して倉庫の奥へと足を踏み入れる。俺と跡部もくまなく倉庫内を探すが未久の姿はなかった。
「ここじゃねえか」
跡部が舌打ちをし悪態を吐く。
「どうかしたのかい?」
声が聞こえ振り向けばラケットを持った青学の不二と大石と河村がいた。
「実は、」
白石が今の状況を3人に説明する。3人はそれぞれ驚きそして慌てた。
「慌てんじゃねぇ!5つのうちの1つはここだ。あとは4つ……急ぐぞ」
「僕と大石とタカさんは救護室に行こう」
「え?」
「大石は医学をかじってる。救護室に待機していれば早く対応できるでしょ?」
「確かに、」
「……熱中症、脱水症状になってる可能性が高ぇ。準備しておけ、大石」
「あぁ!行こう、タカさん!不二!」
3人は踵を返して屋内へと走っていった。
「俺たちも行こうや」
「あぁ」
跡部が先頭を走り次の倉庫を目指す。
俺と未久との出会いはまだ互いに小学生の時だった。
熊本で開かれたアマチュアの将棋大会に俺のじいちゃん、そして未久の父親が出場していた。俺はじいちゃんの、未久は自分の父親の後ろで将棋を見ていた。じいちゃんと未久の父親の対局は未久の父親の勝ちだった。
意気投合したじいちゃんと未久の父親はそのままその日は熊本に滞在し、我が家に泊まっていくことになった。
小学生だった俺は今にもましてやんちゃで、小学生だった未久は今にもまして大人しかった。
基本的に仏頂面で、でも必要とあらば愛想を振りまき笑顔を作る。俺には妹がいるからかどうかはわからんけど未久を笑わせたい、笑顔にしたいと思った。
次の日の朝早くに俺は未久を連れて海へと向かった。朝日に照らされ水面がきらきら光っている。
『わぁ……!』
感嘆を漏らした未久の顔はきらきら光る水面に負けないくらいきらきらしていた。
なにも難しいことはない。ただこれだけ。でも俺はこのときに決めたんだ。未久の笑顔を守ると。
2つ目の倉庫にたどり着いた。
「跡部!」
「わかってる!」
すぐさまマスターキーで倉庫の鍵を開ける。
「未久!返事せんね!」
「チッ……!ここでもねえか」
2つ目の倉庫の中にも未久の姿はなかった。
午後の練習がはじめる10分前のこと。
海面のきらめき
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千歳のターン!
なんだけど、これ全部方言はキツすぎたので会話以外は標準語です。ごめんなさい。