「チッ!アカン、見つからへん」
「どこだ、未久……!」
俺と日吉、そして千歳さんとでのんきに昼飯食ってたところにやってきたのは白石部長と切原で。滅多なことでは取り乱さん部長がめっちゃ焦っとって。その隣にいる切原やって泣きそうな顔しとった。
「なんや、あったんスか?」
「落ち着いて聞いてや、3人とも。実は、」
部長から聞こえてくる話に俺も日吉も千歳さんも言葉を失い動揺を隠せなかった。
未久がいない。
今、信用できるやつに声かけて全力で探しとるらしい。そんな中俺は日吉と一緒に宿舎を探し回っとった。
「そっちの倉庫はどうや?日吉」
「いない」
「ッ」
宿舎内でも他人の部屋にいることはない。何故なら鍵は内側から開けられるからや。いくら鍵を壊されとったとしても内線がある。そこから外部との連絡を取ることだって可能や。大きな窓だってある。
せやから今未久がおるんは内線のような外部との連絡手段がなく、外側からしか鍵のかけられへん窓のない、または窓の小さな密室っちゅーことになる。
「埒があかないな」
日吉は顎を伝う汗をぬぐいながら呟いた。
「どないすれば、」
「……一度、妖一さんのところに行くぞ」
「妖一さん?」
聞きなれない名前に俺は思わず日吉に聞き返した。
「合宿に変装して潜り込んでる未久の兄だ。立海のマネージャーの真昼って奴になってる」
「あぁ」
まさかあの真昼言う人が未久の兄貴で変装してまで紛れ込んどるとは。
にしても真昼言うたら大人しそうなイメージやったけど、どうなんやろ。ホンマに頼りになるんやろか。でもあの未久の兄貴言うくらいや、大丈夫やろと勝手に思った。それにあの日吉でさえも信頼を置いとる。
俺は日吉について行き立海の使っとる4階へと足を踏み入れた。
日吉はとある部屋で足を止め扉を叩いた。
「妖一さん、俺です。日吉です」
「入れ、開いてる」
「失礼します」
日吉に続いて部屋に入れば視界に飛び込んでくる3台ものノートパソコン。画面には監視カメラの映像みたいなもんが映っとった。
「日吉くんに、財前くんですか」
「柳生さんに仁王さん、」
「そんな顔しなさんな、日吉」
仁王さんと柳生さん、その2人に囲まれるようにして置いてある椅子に座りパソコンの画面をガン見しとる金髪を俺は見つめた。この人が、未久の兄貴。なんや、真昼と全然ちゃうやんけ。
「妖一さん、未久は……」
「今探してる最中だ。見りゃわかんだろ」
「ですが、」
「未久はこの建物全体に死角なく監視カメラを設置した。必ずどこかに映る」
一定速で切り替わる画面に俺を含めた5人が目を凝らす。
カチリカチリとアナログ時計の秒針の音だけが部屋に響く。
どのくらいの時間画面を見ていたのかわからん。10秒か1分か10分経っとんのか。それとももう1時間くらい経っとるのか。
「いたぜよ!」
視界で銀髪が揺れる。仁王さんが指さしたところは暗い倉庫のような場所。そこの映る人のようなシルエット。
「未久……」
その姿を見て思わず彼女の名前をこぼした。
「屋外にある倉庫のどれかだ」
未久の兄貴がつぶやいた。
「まずいのではないですか?今日のこの気温でほぼ密室状態の屋外の倉庫に長時間いたら……!」
柳生さんの焦った声色に部屋の空気が凍った。
「俺と連絡が取れるのは日吉と仁王だな。柳生、テメーは仁王と行動しろ」
「はい」
「財前っつったか?テメーは日吉とだ」
「わかりました」
「俺は救護室の用意をしておく。見つけ次第救護室に連れて来い。いいな?」
「行くぜよ、やーぎゅ」
「一刻を争います。急ぎましょう」
「行くぞ、財前」
「おん」
俺たちは部屋を飛び出すと階段を全力で駆け下りた。
なあ、未久。
無事でおってくれ。
君の名を呼ぶ