今思えば、もっと早い段階で気づくべきやったって思ってる。
いつもなら練習開始時には傍にいて選手の様子を見ながらドリンクやタオルの準備をしていたはずの未久ちゃんがいなくて俺は首をかしげたんや。それはどうやら俺だけやなかったらしく切原くんも同様に首をかしげとった。
でも俺も切原くんも未久ちゃんがどんなに忙しいかを知っとった。俺らの私物の洗濯に掃除。ドリンク作ったりタオルを用意したり、それに30人近くいる部員の為に1人で朝昼晩の3食を作ってくれとる。
いくら未久ちゃんの仕事効率がえぇ言うても3日目にもなれば多少の誤差が生じる。その誤差のせいでこっちに顔出しが出来へんだけやて、そう思うとった。
真田くんに話を聞けば、今日は気温が上がるからと多めにドリンクを作るために朝早くからドリンク作りをしとったらしい。そこまでして貰えればあとは運ぶだけやしと、マネージャー室にあったドリンクを俺と小石川で運んだ。ついでに綺麗にたたまれたタオルも。
それから、午前中の練習が終わるまでに未久ちゃんの姿は見えへんかった。
「白石さん、未久のやつ練習来なかったッスね……」
「せやなぁ」
「そんなに忙しかったんスかね?」
「それなら、まだええんやけど……」
とりあえず俺と切原くんは食堂へと足を運んだ。そこには大皿に並べられたおにぎりの数々。
「昼飯、あるッスね」
「てことは、未久ちゃんは仕事しとったってことやな」
「ッス」
宝華梨々は料理をしない。それは既に俺たちの中では周知の事実や。せやけど目の前にはちゃんとおにぎりが置いてある。ちゅーことは、未久ちゃんは中で仕事をしとった。てことやな。
でも、なんやモヤモヤが晴れんくて気持ち悪かった。
切原くんから聞いたんやけど、あの立海のマネージャーの真昼くんは未久ちゃんの兄貴らしい。兄貴やったらなんか知っとるかもしれんと、俺と切原くんはおにぎりを食べながら真昼くんが来るのを待っとった。
食堂に真昼くんが入ってくるのが見えた。せやけどすぐさまその真昼くんのもとには真田くんと幸村くんが向かう。なにやら真剣な顔で話しとるみたいで俺たちが口をはさんでよさそうな雰囲気やなかった。それは隣でおにぎりを頬張ってる切原くんにも伝わっとるみたいで口元にご飯粒つけたまんま固まっとる。
すると真昼くんはおにぎりを一つ真田くんから受け取ると食べた。そしてすぐさま怪訝な顔になって大声で何かを喚いているように見えた。それを真田くんが落ち着けると真昼くんは食堂を飛び出した。それを傍にいた仁王くんと柳生くんが追いかける。
俺と切原くんは恐る恐るその場に残った真田くんと幸村くんに近寄り話しかける。
「幸村くん、真田くん」
「白石……」
「なんや、あったんか……?」
すると眉を下げた真田くんがボソリと呟いた。
「未久が、おらんのだ」
「「っ!?」」
その言葉に俺も切原くんも目を見開き言葉を失う。未久ちゃんがおらんて、どういうことや。やって朝食も何時も通りうまかったし練習中は確かに見えへんかったけどちゃんとここには昼食が置かれとって……
俺の思考を読んだのか幸村くんが口を開く。
「真田曰く、未久ちゃんは今日の昼食をうどんにする予定だったらしいんだ。でも今並んでいるのはおにぎりで。不審に思って兄である真昼……つまり蛭魔妖一くんを待っていたんだ。そして彼におにぎりを食べてもらったら、このおにぎりは未久ちゃんが作ったものじゃないって」
「じゃあ、このおにぎりは、」
「でもぶちょー!宝華梨々は料理できないんじゃ……」
「おにぎりくらいなら作れる可能性もあるよ。でも、このおにぎりを見る限り彼女が作ったようには思えないけどね」
俺と切原くんは実際にこのおにぎりを食べたからわかる。このおにぎりは料理ができない人物が作れるようなものやないって。
せやったら、なんで、
「今最優先すべきは未久ちゃんを見つけること。とりあえずこのことを跡部に」
「そうだな」
「俺、千歳に伝えるわ」
確か千歳は未久ちゃんと仲が良かったはずや。
「俺、日吉と財前に伝えるッス!」
「頼んだよ、赤也」
「ウッス!」
「俺は蓮二のところに行こう。あそこには乾もいるからな」
「あぁ。皆、ケータイは持ってるよね。連絡を取り合いながら探すよ」
未久ちゃんは俺のチームのことをマネージメントしてくれとった。俺らが不満なく練習に集中できるようにて、最善を尽くしとった。せやのに俺は彼女の異変に気づけへんかった……。
未久ちゃん、堪忍な。頼むから、無事でおって。
祈りが届く先