午前の練習を終えて各々が汗の処理を終えて食堂へと向かう。天気予報通り気温はどんどん上がっていく。先ほどテニスコート脇に置かれた気温計を見たところ25度まで気温は上昇していた。
俺も部屋に戻り汗を吸って重くなったシャツを脱ぎ捨て新しいシャツを着る。同室である幸村も同様に着替えをしている。
「今日の昼食はなんだろうね、真田」
「ああ、今朝方未久が冷たいうどんにすると言っていた」
「へえ、うどんか。それはいいね」
「あぁ。未久は本当にわかっている」
「本当に。この合宿を開いたのが彼女自身だったとしても、この合宿に彼女がいて良かったって思ってるよ」
「そうだな」
俺と幸村はそんな会話をしながら一階にある食堂へと足を運んだ。
すでに食堂には多くの人間が集まっており賑わっていた。しかしどこか違和感がある。
「あれ、みんなが食べてるの、おにぎりだよね?」
「!」
違和感の正体はその幸村の一言で気がついた。皆が食しているのはうどんなどではくおにぎりだったのだ。
しかし、なぜ?朝、未久は確かにうどんと言っていたはずだ。
幸村は既に席に着きおにぎりを食べていたジャッカルとブン太の元へと歩を進めていた。
「ジャッカル、ブン太」
「あれ、幸村くん。どうしたんだよい?早く食わねえとなくなっちまうぜ?」
「ブン太みたいなやつがいっぱいいるみたいだからな」
「うるせーよ!ジャッカルのくせに!」
「なっ!?」
「ねえ二人とも、このおにぎりは誰が作ったんだい?」
幸村は笑みを浮かべて二人に問いただしていた。二人は冷や汗を垂らしながらも言葉を紡いでゆく。
「ひょ、表面では宝華梨々が作ったことになってるぜい……でも普通にこのおにぎりうめぇし……」
「あぁ。宝華梨々が作ったとは思えねえよ」
「どうか、したのかよい?」
「実はな、今朝方未久は昼食はうどんにすると言っていたのだ」
「え?」
「どういう、ことだ?」
俺の言葉に目を見開く二人。
「よ、予定を変更したんじゃねえの……?」
「いや、未久は無鉄砲に考えを口に出したりはせん。それがいくら俺の前でもな」
「……」
「真田、とりあえずこのおにぎりを作ったっていう本人のもとへいかないか?」
「それもそうだな……幸村」
「ん?」
「妖一……真昼も一緒にな」
「あぁ……そうだね」
俺と幸村は妖一が来るまでにおにぎりに手を出さずに妖一を待った。待つこと5分、妖一は柳生と仁王と共に現れた。
「真昼」
「幸村さん、どうかしたんですか?」
完全に真昼になりきっている妖一に幸村が声をかける。そして幸村は俺へと視線を投げる。
「未久は今朝、今日の昼食をうどんにすると言っていた。しかし今食堂にあるのはおにぎり。どうみる?」
「!」
妖一は目を見開き食堂を見渡す。もうほとんどの人物が席に着きおにぎりを頬張っている。
「おにぎりを一つよこせ」
「あぁ」
俺は言われるがまま近くにあったおにぎりを妖一へと手渡す。すぐさまそれを口に運ぶ妖一。そして口にした瞬間に眉間に皺が寄る。
「未久が作ったもんじゃねえ」
「「「「!」」」」
兄である妖一が言うのだ、間違いないだろう。ではこれを宝華梨々が作ったとでも言うのか?
「ッ……未久はどこだ」
ギリリと妖一の奥歯が悲鳴を上げる。
「練習でも姿が見えなかった。ずっとマネージャー室にも姿がなかった」
「それは、」
「このおにぎりを作ったのが誰かなんてンなこたどうでもいい……未久はどこだっつってんだよ!」
「お、落ち着け妖一。皆がいる」
ここは食堂。真昼が妖一だと知らない奴が大半だ。真昼は真面目なやつということになっている。ここで妖一が理性を失ってはいけないことくらい、俺にもわかった。
「真昼」
「仁王、」
「これが、厨房にあったぜよ」
仁王が手にしていたのは間違いなく未久の所持していた携帯電話だった。
「くそっ!」
妖一はそう吐き出すと食堂を走って出て行った。それを追いかけるのは仁王と柳生。
時刻は、午後の1時になろうとしていた。
最悪が脳裏を掠める