レンリツ方程式 | ナノ



合宿も早3日目。俺は未久のおかげで楽しくテニスが出来ていた。中学最後の年にレギュラー落ちし、以来サポートに回っていた俺がこんなにも集中してテニスをするだなんていつ以来だろうと考えた。

試合に出たくないと言えば嘘になる。やっぱりテニスは好きだし試合をすることが一番楽しいから。でも氷帝は実力主義。俺が試合に出ることはもうないことくらいはもう理解してる。それでも跡部は優しいからレギュラーしか参加できないこの合宿に俺を連れてきてくれたんだ。

跡部にも、そして未久にも本当に感謝しなきゃいけないね。


「よし!休憩だ!」


そう跡部が声を上げたのは午前の練習が始まって1時間以上経った頃。時間で言えば10時くらい。正確には10時21分。

基礎ドリルまでが終わりこれから走り込みといったところ。


「あれ」


そこで俺ははたと気がついた。いつもならこの時にはもう置いてあるはずのドリンクボトルが今日はなかった。未久が見計らって持ってきてくれるドリンク。いつもすごくいいタイミングで持ってきてくれる。

でもそれがなかった。

不審にも思ったけど未久の忙しさは理解しているつもり。それに甘えて練習に混ざっているのは俺だし、こんなことだってあると自己完結した。


「跡部、ドリンクを持ってくるから少し待ってて」
「済まないな、萩之介」


跡部に一言声をかけ、俺はマネージャー室へと向かった。

そして俺がマネージャー室の扉を開こうとした瞬間その目の前の扉が開き、出てきたのは真昼として通っている妖一だった。


「わ、吃驚した」
「萩之介か……おい、未久見なかったか?」
「未久?見ていないよ?どうかしたのかい?」
「姿が見えねぇんだ……」


珍しく焦った様子の妖一。レアな姿だからもう少し見ていたい気もするけど妖一を落ち着かせるのが今の最優先事項だと思った。


「未久のことだから宿舎内で仕事でもしてるんじゃない?洗濯とか掃除とか、昼食の下ごしらえとか」
「それは、そうなんだがな……」


先ほどよりは落ち着いた様子の妖一。でもやはり心配なようで。


「心配?」
「そりゃあ心配だがな……」
「?」
「アイツは一種の快楽主義者だ。楽しそうと思えばそれが危険なことだと知っていても首を突っ込む。だからな、」
「ケータイは?」
「通じねえ。まあ何かに集中すると気づかねえことは日常茶飯事だからな」
「……とりあえずドリンクを自分のチームに持っていこうよ、妖一」
「萩之介、」
「こんな暑さだから、俺たちがこんなところで時間かけたって無駄でしょ?」
「あぁ」


俺がそういえば納得したのか妖一はかごを持ち直して自身の担当するチームのコートへと戻っていった。そして俺自身も未久が作ってくれたドリンクを持ってコートへと戻る。


「お待たせ」
「いや、わりいな萩之介。こんなことまでさせて」
「気にしないでよ、跡部。俺がしたくてしてるんだからさ」


そう言えば、そうかと目を細める跡部。そして俺は跡部に未久のことを聞くことにした。


「ねえ跡部、未久のこと見てない?」
「未久?どうかしたのか?」
「いや、マネージャー室にいなかったからさ」
「中で仕事してんじゃねえのか?」
「だよね」
「心配事か?」
「少しだけね」


俺と、それから妖一の嫌な予感は拭えなかったけれどきっと未久なら大丈夫だって、そう思ったんだ。


それを、後悔するとは思わずに。



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