レンリツ方程式 | ナノ





私は一人暮らしをしている。氷帝学園へと入学するにあたって引越しをした。氷帝学園までは徒歩40分。最寄りの駅までは徒歩5分。その最寄り駅から兄が通っている高校の最寄り駅まで約30分。そこから兄の家まで徒歩で10分。

私はとあるマンションの一室に住んでいた。私自身、生活には無頓着で正直部屋なんてどうでもよかったのだけれど、兄が「セキュリティーぐらい考えやがれッ」と鬼の形相で言うもんだから、1LKのセキュリティーの高い部屋に住んでいる。


帰ってきて6時過ぎ。私は夕食作りに取り掛かった。昨日スーパーのセールで卵が安かったから買ってきたのが沢山冷蔵庫にあった。野菜もそれなりにあったからオムレツを作ることにした。

プレーンじゃなくて、野菜の入ったオムレツ。玉ねぎ人参ピーマンとかをみじん切りにしてひき肉と一緒に炒めておく。それを卵で包み込む。

オムレツと生野菜のサラダとオニオンスープと白米。まあ、学生の一人暮らしなんてこんなものだ。本当ならもっと簡単に済ませたいのだけれど、中学の頃、まだ兄と一緒に暮らしていたときの癖が抜けない。朝食も昼食のお弁当も夕食も、スポーツをする兄のために栄養バランスを考えて作ったものだ。

その癖が災いして、私はこうして3食自炊。更に言ってしまえば2人分作ってしまうことがままある。


『あー、今日も作りすぎたよ……』


余ったオムレツの中身。つまりは野菜とひき肉の炒め物はフライパンの中にまだまだ残っていた。


『明日のお弁当行きかなあ』


そんなことを思案していると鳴り響くインターホン。

出てみればそこには見知った顔があった。


『萩ちゃん、どうしたの?』
「突然ごめんね。大丈夫?」
『うん、あがって』


私と兄の共通の知り合いである氷帝学園高等部2年、滝萩之介。彼もまた氷帝テニス部の一員だ。中学も途中まではレギュラーだったらしいが3年最後の大会を前にレギュラー落ち。以降、マネージャーに近い仕事をしていくうちにサポートの方が性にあっていると言い今ではテニス部のサポーターとして活躍している。と言ってもそのテニスの腕は本物なのは、テニス素人の私にもわかるほどだ。


「あれ、夕食の前だったみたいだね」


机の上に広がる夕食を見て萩ちゃんは言った。


『萩ちゃん、夕食は?』
「部活終わってまっすぐここに来たんだ」
『夕食食べてく?また多く作っちゃって』
「んー、じゃご馳走になろうかな」


そう言ってニコリと笑う萩ちゃんのために、私はもう一つオムレツを作った。


『……で、なんか用事があって来たんでしょ?』
「さすが未久、やるねー。そこまでわかっちゃうんだ」
『まあね』


夕食も食べ終えてソファーの上。私と萩ちゃんは並んで座っていた。


「跡部から話は聞いてると思う」
『転校生、ね』
「あれは“異質”だね。一緒にいたらこっちまで異質になってしまいそうだよ」
『確かにねー』


屋上から見た彼女の姿を思い出して、私も顔をしかめた。


「しかも、部員がもう可笑しくなり始めててねー……」
『は、』


私は隣の萩ちゃんの顔を盗み見た。そこには悲しそうな表情を浮かべた萩ちゃんがいた。


「恋をすることは悪いことじゃない。でもあれは“恋”に見せかけた“呪い”のようだよ」
『呪い……』
「あの忍足がだよ、あの子にベタベタなんだ」
『忍足侑士が!?』


忍足侑士といえば氷帝テニス部の“天才”と呼ばれている男だ。物腰柔らかな関西弁で周りの受けはすこぶるいい。しかし他人とはどこか一線ひいており隙を見せない男でもあった。そんな彼が、昨日今日やってきた女にベタベタなんて、信じられるはずもなかった。


「宍戸も向日も鳳も……他の部員たちも、どこか可笑しくなり始めてる」
『可笑しくないのは?』
「跡部と俺、そして樺地と日吉とジローくらいじゃないかな」
『……』


なにか、おかしなことが起きている、それは確かなようだ。私の知らない何かが今まさに起こり始めている。


「未久、俺からも頼めないか。あの女、宝華梨々のことを調べ上げてくれないか」


私の顔を覗く真剣な萩ちゃんの顔。こんなにも真剣な彼の顔を私は今まで見たことがあっただろうか。


『……萩ちゃんの頼みとあらば、一肌脱ぎますよ』
「未久……っ」


今にも泣きそうな萩ちゃんは私の体を抱きしめた。嗅ぎなれた、とてもいい香りの香水が私の鼻をついた。




君のためならばと壇上へ



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -