死ねた





もし、こんな僕の願いが叶うなら君の幸せを。

もし、こんな僕の願いが叶うなら君の笑顔を。

もし、こんな僕の願いが叶うなら君に生を。



刃を持つ手が、震えている。

死を怖いと思ったことはない。

でも、刃を持つ手が震えていた。



「な、にしてんだ、おい、」

『リヴァイ』

「ナマエ、」



彼の顔を見たいとそう思った。

見たらきっと、この手に持つ刃を落としていまいそうだけれど、でもこれが最期なのだとしたら、彼の顔を全身に刻みたいって。

我儘なのだろうか。


僕は機能している両目を、彼の姿を見ることだけに使った。


嗚呼、リヴァイだ。

でも、僕は、彼と初めて会ってから十数年、彼のあんな姿をあんな顔を見たことがない。この僕が見たことのない彼の姿が、まだ、あったなんて。



『知らなかった、なぁ』



フフッと笑い声が溢れる。

嗚呼、少しだけ、震えが収まった気がする。



「ナマエ、帰るぞ、もうここには用はねぇ」

『そうだね、もうここに用はないよね』



そう、僕にはもう、

この世界に用がない。



自分の意志とは裏腹に化物と化していく自分の体。

手に取るようにわかる、自分自身の変化。


血が沸騰しているかのように熱い。

本能が引きずられているような感覚。



「ナマエッ!」



嗚呼、リヴァイ。

君をそんな顔にさせているのは、きっとこの僕なんだろうね。


だから、安心してくれ。

もう、そんな顔をしなくて済むようになる。



君に嫌われようが、君に好かれようが、そんなものはどうでもよかったんだ。

君が笑っていればいいなって。

君が幸せならいいなって、

ただ、それだけが、僕の……


だから、

だから、

だから、


君の笑顔を奪っている僕は、

君の幸せを奪っている僕は、

君の未来を奪ってしまいかねない僕は、


今ここで、世界から消えようと思うんだ。



『リヴァイ、笑って欲しいんだ』

「ッ」

『そうじゃなくて、笑って欲しいんだよねっ』



こんなにも僕がお願いしているのに君は笑ってくれないんだね。



『リヴァイ、幸せになって欲しいんだ』



君の幸せが僕の幸せだからさ。



『リヴァイ』

「ッ!ナマエッ!」

『生きて』



僕は、

刃で、

自らの項を削いだ。



「ナマエーーーーーーーーーッ!!!」



僕は、君に生かされていたから。

君の命を食いつぶしていた僕は、もういないから。

だから、



笑って欲しいんだ。





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