アルゴス城は外堀を水が埋め、跳ね橋がかかっている。所謂、ごく一般的な城だった。全体的に明るい雰囲気を漂わせているのは、やはり国柄なのだと思わずにはいられない。
木造の跳ね橋を渡り、大きな扉を潜ればそこはもうアルゴス城内。エントランスホールには銀色の髪の毛を揺らした女性が佇んでいた。
「フェルト将軍、お連れいたしました」
「ご苦労。さがれ」
「はっ」
ここまで案内をしてくれた兵は綺麗に一礼し、この場を去った。
「随分と早かったな」
こちらを向き直り、仁王立ちでそう言い放つ。
フェルト・メルンヴェルン]]T
アルゴス帝国将軍。あの伝説の英雄の一人である『大陸最凶』の魔女。魂の転生という禁術を唯一扱える人間であり、それを駆使し長生きをしている。
口は悪いが、頼られると放っておけないという性格の持ち主である。
そして、私の命の恩人でもある。
「あんな餓鬼がもうここまで育つか。フン、とりあえずは俺の部屋に行くぞ」
フェルト様は踵を返すと城の奥へと進んでいった。
私とアルケイン様はそんなフェルト様の後をついてゆく。フェルト様は歩きながら、こちらを向くことなく話しだした。
「……アルケイン。最初お前は席を外せ」
「な、なんでですかっ」
フェルト様の言葉に困惑を隠せない様子のアルケイン様は事の真相を追求する。そんなアルケイン様に動じることもなく淡々と答えてゆくフェルト様。
「俺はコイツに俺の知る真実を話すつもりだ。あらかじめ忠告しておくが、あまりいい話ではない。ユーリアはお前に知られたくなかったと思うかもしれない。だからこそ、伝える伝えないはユーリアが判断ずるべきだ。だから初めはユーリアにだけ話す」
「……ユーリアは、それでいいんですか?」
『……フェルト様がそうおっしゃるのであれば、そうした方がいいのだと思います。お側にアルケイン様がいらした方が安心はできますが……』
「……」
アルケイン様も、そして私自身も無言になってしまった。
気づけば前を歩いていたフェルト様が足を止めていた。どうやらここがフェルト様のお部屋らしい。
「……アルケインはこの隣の部屋にいろ。何かあったとき、すぐに来られるようにな」
「……わかりました」
アルケイン様はそう言うと、すぐ隣の部屋に姿を消した。
「ほら、さっさと入れ」
『……失礼いたします』
フェルト様の声色で、私は既に察してしまっていた。いや、もう予想は出来ていたんだ。
私の過去が、そう簡単に拭うことのできないものだと。
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