『んっ……此処、は……?』
目を覚まし、まず視界に入ってきたのは真っ白な天井。そして真っ白いカーテンだった。
感じる空気はネクロス特有のものだけれど、こんな部屋を少なくとも私は知らなかった。
それよりもまず、私はいつ、どうやってネクロスに帰ってきたんだろうか。
「あ、お目覚めになれらましたか?」
『あ、はい』
白衣を着た医者であろう女性が微笑みながら私に声をかける。
「心配していたんですよ?丸一日お眠りになられていたので」
『丸一日!?』
「はい」
私が目を見開いたのをみてクスリと笑った彼女は、まるで次に私が言いたいことがわかったかのように言葉を続けた。
「ここまでは、アルケイン将軍が運んでらしたんですよ」
『アルケイン様が!?』
「フフッ、そうです」
その言葉にさらに動揺した私に彼女は今度こそ笑い声を漏らした。
『あの、つかぬ事を伺いますが、ここは?』
「ネクロス上の救護室です。その中でも個室にあたる部屋です」
『なるほど、』
通りで私が見たことがなかったわけだ。
私は怪我をすることはあってもどれも軽いもので、救護室に運ばれたことが一度もなかった。
「気分はいかがですか?怪我自体はたいしたことなかったんですが、精神面的に……」
『あぁ、やはり……』
「昔処方されていたという薬を点滴しておきました」
『ありがとうございます』
「お食事はいかがいたしますか?」
『今は、遠慮しておきます』
「わかりました。お目覚めになられたことはアルケイン様には……」
『伝えておいてください』
「かしこまりました」
そう言うと女性は一礼し部屋を出ていった。
どうやら私はあのあとに意識を飛ばしてしまったらしい。それをそのままアルケイン様がここまで運んでくださった、ということだ。
『はぁ……』
「ため息などつくと幸せが逃げるぞ」
『ヌ、ヌーゴ様……ッ!い、いつの間に……』
私が一瞬視線をしたに向けていた隙に、ベッドの脇に立っていたヌーゴ将軍。私は全く気が付けていなかった。
「拙者は忍者だからな。こんなことくらい朝飯前だ。ところで大丈夫なのか?さほど心配はしてないけど」
『大丈夫ですよ』
「そうか、それならいいが。しかし、またあの薬を使うことになるとはな」
『私ももう、あの薬にお世話になるつもりはなかったんですけどね』
私とヌーゴ様がいうあの薬とは、私がまだネクロスに来たばかりの頃によく飲んでいた強度の精神安定剤のことだ。
「何があったのだ?しょうがないから拙者が聴いてやる」
『……実は、』
私はヌーゴ様にゴジ砂漠の戦場であったことを話した。
「……そうか。で?お主はどうしたいんだ?」
『私は、過去を知ることが怖いです……真実を知ってしまうのが、怖いです』
「そうか……」
『でも、このままでもダメだって思うんです。もしかしたら、ケジメを付けなければならない時が来たのかもしれません……』
すると不意に、部屋のドアがノックされた。私が返事をすれば扉が開きヒョコっと顔が覗く。
「ユーリア?」
『アルケイン様……』
私が起き上がっているのを確認すると室内へと入ってくる。スっとベッド脇までやってくるとアルケイン様は私の頭を撫でた。
「大丈夫だったかい?」
『おかげさまで。アルケイン様がここまで運んでくださったと聞きました。ありがとうございました』
「君が無事なら、それでいいです」
「ちなみに、アルケインがユーリアをここまで運んだという噂で今、城内は持ちきりだ」
『!』
「そうなんですかぁ?知らなかったです」
クククッと意味深な笑みを浮かべるヌーゴ様とは対象に、そんな噂初めて知ったと言う風に首をかしげるアルケイン様。
『そ、それは本当なんですか?』
「ああ、多分な」
『――ッ』
この調子だと、軍報や週刊ネクロスの記事を見るのが怖い。あることないこと、噂に尾ひれやらなんやらが付いた状態で記事にされるに違いない。ああ、もう憂鬱だ。
「じゃあここからは真面目な話……どうしたいですか?」
『……私は、一度フェルト様のもとを訪れたいと考えています』
きっと、私の真実を知る恩人。彼女に会えば、きっと私は……。
「わかりました。陛下には僕から言っておきます」
『ありがとうございます』
「……ユーリア」
『はい?』
「……無理は……しないでくださいね」
そう言ったアルケイン様の顔は、仮面に隠れてわからないけれど、
そこか、悲しそうに見えた。
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