戦場では、それはそれは想像を遥かに超える戦闘が行われている。
魔導によって至るところでは火の手が上がり、野や草木が燃えている。そんな戦場のあちらこちらでは白刃が交わり、金属音をかき鳴らしている。
その上空を、時にはすぐ脇を何千、何万という矢が飛び交う。
嫌でも耳に飛び込んでくる音の数々。人々の雄叫び、悲鳴、断末魔……。
こんなところに一般市民が立ち入ろうものなら、ものの3分足らずで気が狂うだろう。
血がこびり付き、緑を忘れた草や、元は白かったのであろう赤黒い布切れ。
まるで障害物のように転がっている、屍。
それが、戦場だ。
「カルマ、準備は整ったな?」
「はい、カイゼル様」
「では行くぞ!リザードマンの大群発動!皆の者下がれ!」
「「「!」」」
国王であるカイゼル・ニーベルエンドの一声で一気に下がるネクロス兵。
するとその瞬間には、
どこからともなく現れたリザードマンの大群が敵兵をなぎ倒し、道をこじ開けていった。
「行け!勝利は我がネクロスに!」
「「「おおぉぉおおおぉぉ!」」」」
リザードマンが開いた道を好機とばかりに突き進むネクロス兵。
「……ユーリア」
『はっ』
振り向いたカイゼル様に名を呼ばれ、私はすぐさま返事を返して膝をついた。
「弓兵の方はどうだ」
『いつでもいけます』
「そうか。ならば弓兵の指揮は任せた。俺様も出る」
『カイゼル様直々に出られるのですか?』
「士気があがるだろう?」
ニィと口角をあげるカイゼル様。自信に満ちたその姿に私も自然と笑みがこぼれる。
「心配は無用だぞ、ユーリア。この俺様を誰だと思っている」
『我らが国王、カイゼル様。ご武運を』
「ククク、行くぞカルマ!ついて来い!」
カイゼル様は赤い髪を揺らして目にも止まらぬ速さで戦場を駆けた。
「ではここは任せたぞ、ユーリア」
『お任せ下さい、カルマさん。そちらこそ、カイゼル様のことよろしくお願いいたします』
カイゼル様の右腕とも名高いカルマさんが私の言葉に笑みを深めると、彼もカイゼル様の後を追っていった。
そして、
約50万を数える弓兵から放たれた矢が戦場に雨のように降り注ぎ、
敵兵のおよそ10分の3を戦闘不能にさせ、さらに、敵兵の約3分の1がその矢の雨を見て戦意喪失したのが、
今の会話の2分後の話である。
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