アルケイン様の話が終わり、少しだけ緊張感の緩んだ新兵たちを私は眺めた。
そして隣のクロさんがまた口を開く。
「では次に、ユーリアさんから何か」
『え?私、ですか?』
急に呼ばれた自分の名。私はクロさんの顔を覗き込んだ。
「先輩として何かアドバイスをお願いしたいです」
爽やかに笑うクロさん。私はアルケイン様の方を見やった。
『それで私を呼び出したんですか、アルケイン様』
「フフッ、よろしくおねがいしますよ、ユーリア」
クロさん同様、微笑みを向けられ私は断れない状況になった。しょうがなく私は先ほどアルケイン様が立った壇上に上がる。
新兵の目がすべて私に向く。様々な感情が入り混じった瞳の数々。
私は短く息を吐くと、声を出した。
『初めまして。私はアルケイン様直属軍不死世界、ナイトウォーカーNo.4を勤めております、ユーリア・アークドールと申します』
私が自己紹介をするとざわめく新兵。そのざわめきも三者三様である。
『先輩からのアドバイスといっても、私自身まだ21の若造です。アドバイスというか、心に留めておいて欲しいことが1つあります』
私は声を張り上げた。
『己の心に誇りを持て!己の心に隙を作るな!』
ビクリと兵たちの方が震える。おとなしいやつだとでも思われていたのだろうか。こんな大声が出るとは思わなかったのだろう。これでも直属軍のランカー。今や兵をまとめる立場にある。これくらいの大声が出せなくてはやっていけない。
『……今日から貴方がたはネクロスの為、アルケイン様の為に働くわけですがその行為自体に誇りを持っていただきたい。そうすれば自然と自分自身のためになるでしょう。ネクロスの未来、貴方がたの未来はその心にかかっていると思ってください』
チラリとアルケイン様の方を見やれば、満足そうに笑みを浮かべている。
私は小さく息を吐く。
『話は以上です』
私は壇上を降りてアルケイン様のもとへと向かった。アルケイン様はパチパチと私に拍手を送っていた。
「流石はユーリア」
『お褒めいただき光栄の至りです。それで、なのですが』
「ん?」
『私、これからカイゼル様と共に戦場へと行かねばなりませんので失礼いたします』
「え、陛下と?」
『はい。これから一刻後に』
「聞いてないよそんなこと!」
『その、私も昨晩聞いたばかりでして……』
「陛下め……っ」
まるで玩具を取られた幼子のようにカイゼル様への私怨を燃やすアルケイン様。
生きるということを悟っているアルケイン様はたまにこういった態度をとる。
「はぁ……ユーリア、くれぐれも怪我などしないようにね」
『はい、アルケイン様』
ポンポンと頭を撫でるアルケイン様の手。そこから伝わる氷の様な冷たさに私はひどく安心感を覚える。
『申し訳ないのですが、クロさん。この本を書庫へと持って行っておいてはいただけませんか?』
「そのくらい、お安い御用です。ご武運を」
『ええ』
私は手にしていた本をクロさんへと手渡す。
「ユーリア」
『はい』
「いつ帰ってくるんです?」
『明日の夕刻頃には』
「では、帰ってきたら共にワインを飲もう」
『楽しみにしております』
私が笑えば満足そうにアルケイン様も笑う。
「いってらっしゃい」
『いってまいります』
私は集会室をあとにし、戦場へと向かった。
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