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  世界を飲み干す


彼との関係は、言うなれば歪だと思う。

家が隣で親同士の仲がいい。所謂王道の幼馴染の関係である私と彼、沖田総司。言葉の通り幼い頃から一緒で、私の中での男の子は彼であったことは言うまでもない。そうして私は幼稚園という新たな社会に飛び出した時にいかに彼が異質かを思い知ったのだ。

わかりやすく言えばイケメン。違う言葉で言えば容姿端麗。顔立ちが良いなどだろうか。

それに加え、彼は運動もできた。幼稚園や小学校でモテる男子といえば運動のできる男子だ。かけっこが早い。鬼ごっこが強い。サッカーがうまい。鉄棒で上手にできるなどなど。それらを彼はいとも簡単にやってのけてみせた。その頃の言葉を借りれば彼はヒーローだったのだ。

いや、あの頃の言葉なんかじゃない。今の私からしても彼はヒーローなんだ。



「遥」
『……総司』
「あのさ、教科書貸してくれない?忘れちゃってさ。確か今日国語あったよね?」
『うん。いいよ』



高校生となった今でも彼がモテるのは変わらなかった。それどころか勢いは増すばかり。なんでもファンクラブまで存在するらしい。恐ろしい話だ。そんな夢物語、ドラマや漫画の話が実際にあるとは。

そんな感じで私たちの世界を構成する周りの社会はどんどんとめまぐるしく変わっていった。それでもなぜか、私と総司の関係だけは一寸たりとも変わらなかった。

いや、変わっているのかもしれない。

私が、認めていないだけなのかもしれない。



『はい。お昼は食べたの?』
「食べたよ。遥は?」
『ついさっきね。そうそう、また新しい彼女が出来たらしいじゃない』
「あれ?情報早いね。それ、昨日の話なのに」
『総司の話なんて嫌でも入ってくるわよ』
「そう?」



ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべる総司。

しかしこんな笑顔、所詮は貼り付けたものなのだと知っている人間は果たしてこの学校に何人いるのやら。


総司は高校に入ってから彼女を作り始めた。初めは入学一週間後だったか。急に私の前に現れて「彼女が出来たんだ」と報告したんだ。そう、あの時も今みたいな笑みを浮かべていたきがする。嘘で塗り固めたような胡散臭い笑みを。

きがする、というのもその時の私の頭の中が真っ白になったからだ。

なにせ中学でも彼はモテていたのに、中学ではそういった恋愛話は一つもなかった。なのに高校入学一週間でそんな話をされるだなんて、思ってもいなかった。いや、思いたくなかったんだ。

そう、私は総司が好き。好きと自覚するのは割と早かったと思う。小学校に入ってすぐの頃だったと思うから。とある男子に突き飛ばされた私を総司が助けてくれたんだ。あの時だと思う。でも、私はその気持ちを彼に伝えることができなかったんだ。

怖かった。

純粋に怖かった。今の関係が崩れてしまうんじゃないかと。あの頃の私は柄にもなく大人びていた。今でもそう思う。小学校の低学年がそんなこと考えるわけがないのに。

そして、あの頃から私は何一つ変わっていない。

今だって本当は『嫌だ、彼女なんて作らないで。私は総司が好きなの』といった台詞が言えないんだ。

怖いから。関係が、このお昼休みなんかに会話できるこの関係が壊れるのが。

私は弱虫で、それでいて卑怯者だから。



『この間は2週間だったっけ?』
「正確には11日、かな?ま、それも友達に聞いたんだけど」
『ふーん。ま、今回は長引くといいね』
「……」
『……総司?』
「え?いや、なんでもないよ」
『……ねえ、総司。もし私に彼氏が出来たらさ、祝ってくれる?』
「そうだね、おめでとうっていってあげるよ」
『そっか』
「じゃ、教科書借りてくね」
『うん』



私は、臆病者さ。




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