無重力で走る心
僕には世間一般で言う幼馴染がいる。家が隣同士で両親同士仲が良くて、漫画にでも描かれているようなそんな幼馴染の関係。
幼かった僕の小さな世界の中にいたのが遥だった。だから僕にとって遥という存在は全てで、絶対だった。世界を、社会を、世間を知らない餓鬼だったとしてもだ。
それは、幼稚園に入ってからも小学校に入ってからも中学に入ってからも、そして高校に入った今も変わらない。今でも遥は僕の中で唯一無二、絶対的存在なんだ。
「遥」
『……総司』
「あのさ、教科書貸してくれない? 忘れちゃってさ。確か今日国語あったよね?」
『うん。いいよ』
こんなこと言うのも何なんだけど、僕はモテる。顔がいいと認識したのは幼稚園に入ってから。僕の周りが遥以外の女の子でいっぱいになって、すごく不愉快だった。ま、それは今現在も変わらないんだけど。
『はい。お昼は食べたの?』
「食べたよ。遥は?」
『ついさっきね。そうそう、また新しい彼女が出来たらしいじゃない』
「あれ? 情報早いね。それ、昨日の話なのに」
『総司の話なんて嫌でも入ってくるわよ』
「そう?」
僕は今まで作らなかった彼女を高校になって作り始めた。もちろん、好きで付き合ってるわけじゃない。言うなれば、遥に僕の存在をもっと意識させたいがための行動。
もっと言えば、嫉妬させてみたいという僕なりの願望。
どこかで期待してた。僕が彼女を作れば遥が僕のことを必死で引き止めるのを。でも、現実は甘くなかった。
僕が初めて彼女が出来たと伝えたとき遥はほんの少しだけ目を見開くと『そっか……すごいじゃん、おめでとう』と言ってきたんだ。頭が真っ白になった。
なんで?なんでなんでなんで、なんでなんでなんでなんでなんで。なんで遥はそんなに冷静なの?なんでそんな笑顔を浮かべてるの?なんで『いや』って言ってくれないの?なんで、なんでなんで。
そうしたら止まらなくなって、彼女を作っては別れを繰り返すようになった僕。それでも遥との関係は変わらなかった。いや、変わったんだと思う。でも、僕が変わらなかったことにしてる。見ないふりを、してる。
僕が素直じゃないから。もっと素直だったならきっと遥に「好きだよ」って伝えられた。でも僕は素直じゃないから、わがままで醜いから、心にもないことを言うし、するし、ほんと、困ったやつ。
『この間は2週間だったっけ?』
「正確には11日、かな? ま、それも友達に聞いたんだけど」
『ふーん。ま、今回は長引くといいね』
「……」
『……総司?』
「え? いや、なんでもないよ」
『……ねえ、総司。もし私に彼氏が出来たらさ祝ってくれる?』
「そうだね、おめでとうっていってあげるよ」
『そっか』
「じゃ、教科書借りてくね」
『うん』
それでもいつかって、根拠もない期待を抱くんだ。
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