私はこの日、羅刹となってしまった仲間の元を訪れていた。基本的に昼間に行動のできなくなってしまった彼ら。彼らは今、城の中でも陽の射さない薄暗い部屋にいた。

時刻にして夕方。ようやく彼らが動き出す時間帯。私は平助と共にいた。

同門である平助と山南さん。よく刀について語ったものだ。その中でも歳の近い平助とはたくさん語った。馬鹿なことから世のこと隊のことこれからのこと。

そんな彼とたくさん話をして思ったのは、実は彼が一番悩み藻掻き苦しんでいたのではないかということ。真実は定かではないが。



『平助、大丈夫?』
「ああ、割とな」
『そっか』



何故彼が薬を手にとったのかはわからない。人でなくなってしまう変若水。代償はとても大きいものだ。それでも私にひとつだけ分かることは、彼も彼なりに誠を貫こうとしたのだということ。



「どうしたよ、そんな顔してさ」
『え、どんな顔?』
「すんげー暗い顔。なんか花のとこだけ雨降ってるみてぇ」
『そんな顔してた?』
「してたしてた」



そんなつもりはなかったのに、彼に気づかれてしまった。ならば先ほど会った山南さんにも気がつかれたのだろう。一瞬眉をひそめていたから。



「んで?何があったんだよ。俺でよければ話くらいは聞くぜ?」
『いやね、斎藤くんとか土方さんにさ、改めて今はいない仲間のことを聞くとさ、なんかこう、私がもし残ってたら何か出来ることがあったんじゃないかとかいろいろ考えちゃって……』
「例えば?」
『近藤さんともっと話し合って、それで原田さんとか永倉さんがまだここに居られたかもしれない』
「あー……花なら出来たかも知んねえな」



私がいたときのことを想像したようで、困ったように笑う平助。



『もっと近藤さんと一緒にいたかったとか、思ったりするんだ。もっとたくさんお話できたのに、とか』
「あぁ」
『……自分で隊を去ったのに、後悔なんてしてるんだよ。馬鹿みたいだよね』
「しょうがねぇさ。確かにあの時もう新選組はおかしくなっちまってたんだからよ」
『う、ん……』



無意識に拳を握り、力がこもる。奥歯もぎりりと音を立てる。



『平助はさ、後悔してないの?変若水飲んだこと』
「怖いとは、思う。日に日に自分じゃなくなっていくみてぇで、怖いって。でも、自然と後悔はしてねぇんだよ」
『どう、して?』
「なんでだろうな?やっぱり生きてなきゃできねぇことってあるじゃん?変若水を飲んで俺は生きた。それでまだできてることがあるんだ。まだ、刀が振るえてる」
『!』
「まだ先がみてぇって思ってる俺がいる。だから後悔なんてしてねぇんだ」
『平助、』
「それに、もう会えねえって思ってた花とも、また会えた」
『あっ』



目を細めて笑う平助。変わってしまったと思っていた。変若水を飲んで、心も体も。でも、そんなことはなかったんだ。だって笑顔はあの頃と何一つ変わっていなかったから。



「悲しいことばっかだけどさ、その中にだっていいことあるって!な?」
『そうだね。私も、こうして平助と会えたものね』
「おうよ!」



にししと笑う平助。

まるで曇天の隙間から覗く太陽のようだった。



悲しみにくれる暇



ありがとうと、心の中で呟いた。






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