そう思えば一度、平助と話をしたことがあった。


「京にくれば何かが変わるかと思った、何かができると思った」
『仲間のために、自分に出来ることがきっとある』


そんな話。


結局それがなんなのか、私は見つけられなかったように思う。それどころか私が思い描いていたものとは違い、突きつけられる多くの現実に嫌気がさしはじめた。

幕府の命なはずなのに結局は浪士扱いを受け、ロクな後ろだても得られず、後ろだてが欲しければ訳のわからない研究を手伝え。

……結局は、何も変わらなかったように思える。変わったことといえば、日に日に緋色に染まっていく自らの手と、それを恐ろしいことだと思わなくなった己の心か。



武士とは何か、信念とは何か、答えが見つかると思っていたけれど、それはどんどん深みにはまってどんどんわからなくなって。



そんな時だったか、彼女がやってきたのは。



純粋無垢な少女。蘭方医の娘、いいところの出。医者の娘ということもあり、血なまぐさいのは大丈夫なようだったが、争いを好まない優しい優しい女の子。

彼女を見るたびに思った。

『私は、ああなれただろうか』

そしてその度に答えを出すのだ。

否、と。



今思えば、私だけだったはずがないのだ。

あの“変若水”に苦しめられたのは。



『山南、さん』



きっと山南さんなら大丈夫だって、どこかで思っていたに違いない。でも、山南さんだって苦しんでいた。助けられなかったのは、私。

昔からの仲間が人で無くなった。山南さんは山南さんだけれど、それでも、何かが確実に変わっていたし、きっとこれからも変わっていくのだろうと根拠のない確信があった。

私はそれが、とてつもなく怖かったんだ。



『おねがい、します。近藤さん』
「……花……」



山南さんが羅刹となり数日だった。屯所移転が決まってすぐだったと思う。

私は“離隊”を申し出た。

新選組での“離隊”が意味するものは“死”だ。隊を抜けるものは隊規違反。切腹だ。

もう、その覚悟もできたのだ。


でも、近藤さんと土方さんが下したのは切腹なんかじゃなかった。



「花、君には違う生き方ができる。私は君をここで失いたくなどない」
『近藤、さん……で、でも!隊規は絶対で……土方さんっ!』
「おめぇには無理をさせた。これくらいはさせてくれ。花。進みたい道を進め。おめぇにはその権利がある」
『っ!』



私はその時の二人の顔を一生忘れない。

悲しげで辛そうで、でもどこか優しげな笑みを浮かべた二人。



私は、不治の病にかかり新選組を抜けたということになったらしい。



こうして私はお世話になった新選組を抜けたのだ。




その武士、誠を求む




私は生まれ故郷である会津へと向かった。

そこで、自らが求めた“誠”の道を進もうと決めたのだ。






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