会津も肌寒くなってきたこの頃。戦も激しさを増していた。もう数日もすれば此処も戦場になってしまうのだろう。そんな状況だった。

そんな会津の最前線に立つのが私と斎藤くんだった。


今日も戦いを終え陣営へと戻り休息をとっていた。私は斎藤くんのそばにいた。

斎藤君は人を寄せ付けないような雰囲気を持っているけれど、慣れれば逆に居心地がいい。



『疲れてない?斎藤くん』
「問題はない。神田は大丈夫か?」
『そんなに柔じゃないかな』
「そうか」



陣営から少し離れた場所。手頃な石に座る。空を見上げれば月が出ていた。



『通りで、明るいと思った』
「月、か」
『うん』



雲のない夜空。明かりはその月だけだけれど、すごく明るく感じた。



「……神田」
『ん?』
「一度、神田と刃を交えたい」
『!』



横を見れば真剣な表情の斎藤くん。私は無言で頷いた。


立ち上がり、対峙する。私は刀を抜き、正眼の構え。斎藤くんは刀の柄に手をかける。


勝負は一瞬と言っても過言ではないだろう。私も斎藤くんも一撃必殺を主とする。

相手の呼吸を探る。一挙手一投足、少しの動きも見逃せない。


周りの木々が、風で揺れた。刹那。



『っ!』
「っ……」



一度交わった互いの刃は甲高い悲鳴を上げ、斎藤くんの切先は私の喉元へ。そして私の切先は斎藤くんの心の臓へとそれぞれあてがわれていた。



「フッ……」



斎藤くんは軽く笑うとその刃を鞘へと戻した。私もすぐさま鞘へと戻す。



「変わっていないようだな」
『斎藤くんこそ、ね』



刃を交えれば、どんなことを考えているかわかる。私も斎藤くんもそんな共通点がある。刀にすべてを捧げた身……だからこそ、言葉よりもこの刃を交えるという方法の方が、互のことを分かり合えるのだ。

彼の信念は、誠はあの頃から何一つ変わっていなかった。むしろ、揺るぎないものへと成長したようにすら感じられる。


……西洋の文化を取り入れ、幕府軍を追い詰めている新政府軍。きっとこれからは刀が古く、そして刀が使われない時代がやってきてしまうのだと思う。最前線に立っている私と斎藤くんはそれを肌で感じている。

だからこそ、こうして誠を胸に刀を振るえているからこそ、あの頃よりももっと強い信念を胸に抱いているのだと思う。



『道は違ったけれど、同じだったね』
「あぁ」



彼の藍色の髪の毛が、月に照らされて煌めいている。そんな彼の髪の毛も、私の髪の毛も、肌寒い風に弄ばれていた。そんな私たちの間にこれ以上の会話はなかった。



交われば、月



信念を知るのは、月だけ。





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