総司のもとを離れ、江戸の中でも外れにある宿にたどり着いたのが夕刻。綺麗とは言えないが居心地は良さそうな宿屋。私は六畳ほどの小さな部屋を取った。

取り付けられている戸を開けば、点在する家々と田畑が望める。そして家路を急ぐ人々。

私は戸の枠に腰掛けて酒の注がれた盃を煽った。少し辛めの酒が喉を通ってゆく。



『ふぅ』



ゆったりと酒を飲んでいれば隣から何やら賑やかな声が聞こえてくる。隣の部屋も此処と同じように戸を開けているのだろう。よく聞こえてくる。



『まあ、このご時勢、飲んでなきゃやってられない、か』



私はそう言葉をこぼし、三杯目を煽った。その時だ。



「そうは思わねえかぁ?!なぁ!佐之っ」
「あー、新八。飲みすぎだ」

『っ!』



ゴトリ、と盃が私の掌から畳の上に落ちる。雫が畳に染みをつくりだした。

私はバッと走り出した。そして隣の部屋の襖を開け放つ。



『原田さんっ、永倉さんっ!』
「っ!」
「おめぇ……花じゃねえかっ!」
『やっぱり……やっぱりそうだ……』



新選組を離れて、もう会えないだろうと思ってた。でも、新選組が北上してくると聞いてもしかしたらと思っていたのに袂を分けていた二人。斎藤くんからその話を聞いたとき、ああやっぱり会えないんだと、そう思ったんだ。

でも、今目の前に、その二人がいる。



「どうしてこんなところに……」
「まぁまぁ佐之!その話は酒飲みながらでいいじゃねえか!ほら!花もそんなところに突っ立ってねえで、こっちこいって!」
『あ、はい』



私は向かい合う原田さんと永倉さんの間に座った。するとさっそく永倉さんが私に杯を持たせて酒を注いでくる。



「ぐいっと行け!ぐいっと!」
『じゃあ、』



私は杯を煽る。すっとする飲み口で酒豪のふたりが好みそうな酒だった。



「で?どうしてこんなことにいんだ?」
『……今、私は会津藩士なのです』
「!」
「故郷に帰って、それでも刀を手放さなかったのか」
『手放せませんでした……それに、私なりに誠を貫き通したいと、そう思ったから』
「実に花らしいじゃねえか!な?佐之」
「そうだな」



何かを思うように目を伏せる原田さん。

隣の永倉さんは気分も良さそうにどんどん私に酒を注いでくる。



「で?なんで江戸なんかにいんだ?」
『まあ、江戸の方に行く命令を受けまして。ついでに総司のところに行ってきましたよ』
「そうか、総司はどうだった?」
『そうですね……変わってなかったです。変わってなくて、辛かったです』
「……そうか」








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