会津にたどり着いて数日。天気の良いこの日、私と花さんは買い出しのために城下町へと出ていた。会津の城下町は賑わっていて、見ていてとても楽しかった。



『雪村さん、早くしないと日が暮れてしまいます』
「あ、ご、ごめんなさいっ」



私が初めて花さんと出会ったのはあの夜の日だった。月夜に輝く土方さんの後ろにまるでそこが特等席かのように佇んでいたのが花さんだった。

男所帯でただひとりの女性。私のその存在にとても救われたんだけれど、その考えは甘かった。


私はどうやら花さんに嫌われているみたい。


言葉ひとつひとつに刺があって私を寄せ付けなかった。でも一応最低限のことは手伝ってくれたし女性特有のことの相談にも乗ってくれた。そこは本当に感謝している。

でも、再会して初めて私に向かった言葉が「まだいたんですか?」だった時は本当に心を抉られたかと思った。なにせ正論だったから。


花さんの鋭い双眸はまるで私の中の中まですべてを見透かしているようで、怖かった。私はそんな花さんの瞳が苦手で、昔もそして今も彼女と目を合わせることができないでいた。



予想以上に多くなってしまった荷物を両手いっぱいに抱えて城へと戻る。でも花さんのほうが明らかに多く荷物を持っている。それなのにもかかわらず私の数歩先を歩く花さん。



「うぅ……」



ちょっとめげそうになりながらも、そしてよたよたとしながらもどうにか後をついてゆく。そんなときだった。



「おまんさん、会津城にいくんか?」
「へ……?」



声をかけられ振り向くとそこには侍のような風貌の男が三人。その話し方は隠しているみたいだけれど明らかに西の方の訛りがあった。

この人たちは長州とか、薩長の人だと気がつくのにはさほど時間はかからなかった。



「幕命で会津城にいかなきゃならんのだけんど、道がわからん」
「教えてはくれんか?」
「え、いや、私……」



どうしようどうしよう。どうすればいい?

私はとっさに花さんのいる方向を振り向いた。でも、そこに花さんの姿はなくて。



「あ、なんで……」



置いていかれてしまった?私のことなんか気がつかずに?

私は絶望した。これから起きてしまうであろうことを予測して。



「なあ、嬢ちゃん」
「わ、私、違いますっ!」
「じゃけんのう……」
「おまんさん、ぐあっ!」
「え……?」



急に目の前にいた男の人が倒れた。胸から血を流しながら。


倒れた先に見えた姿は、私のよく知っている姿だった。



「花さんっ」
『下がって。怪我をしたくないのであれば』
「は、はいっ」



私は恐怖で竦んでいた体に鞭を打って花さんの邪魔にならない場所まで移動した。

そして花さんの姿を見ると、花さんは十人以上の男の人に囲まれていた。



「あ、あぶなっ」



さすがの花さんだって、あれだけの人数に囲まれてしまえば危ない。私は声を荒げた。

しかし、そんな男たちが花さんによって次々と斬り伏せられてゆく。圧倒的だった。

気がつけば立っているのは花さんだけで、道の真ん中には大きな血だまりが出来ていた。花さんは刀を振って血を払い落とすと鞘へと刀をしまった。そしてこちらを振り向き一瞥すると近づいてくる。



『怪我はない?』
「あ、」
『……大丈夫そうだな、よかった』



本当に安堵した表情を浮かべる花さん。ああ、彼女は本当に私の心配をしていてくれたんだ。

そうわかると急に私も安心できて、膝から力が抜けてその場にへたりこんでしまった。



『お、おいっ』
「……私、花さんのこと、勘違いしてました」



私は大きな勘違いをしていた。私が彼女を苦手としていたのは彼女のせいなどではなかったんだ。それは、私自身のせい。

だんだんと心を許してくれた皆の中で唯一、一切心を開いてくれなかった花さん。それを私は自分のことを嫌っているからであると思っていた。でも、それが間違いだったんだ。花さんは、きちんと線引きをして、私を守ってくれていたんだ。



『……はっきり言うよ、私は君のことが嫌いだよ』
「あ、」
『でも、守らねばならない存在だとは思っている。好き嫌いと守る守らないは別だから』
「……はいっ」



花さんは強い。大きな志を持ってその腰に大小を腰に携えているんだ。私は勘違いしていた。彼女、神田花という存在を。



血の色と似た華



まるで、絶壁に凛と咲く一輪の花のよう。




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