皆を城内に案内し、容保公との顔合わせやらなんやらを終わらせればもう夜中になっていた。長旅で疲れたのであろう雪村さんはもう床についている。 私は一人、月夜を明かりに刀を振るっていた。 心が揺れていたから、それを断ち切りたくて。 土方さんは私にとって、とても大きな存在だ。あの頃だって私は彼のもとで刀を振るいたくて、彼のために己の誠を貫き通したいと思っていた。それほどまでに大きな存在だった。それでも、私は新選組を離れたのだ。 だからこそ、この再会は嬉しくあり同時に悲しくもあった。 矛盾した心が生むものは決して良いとは思えないものだ。 『はぁっ!』 白刃が煌き、上段の構えから振り下ろされる。ヒュンと空を斬る音がする。 「相変わらず、綺麗な型だな」 『ひ、じかたさん……』 庭に生えている大木に寄りかかるようにして佇む土方さん。その紫苑の双眸は間違いなく私を射抜いていた。 「こんな夜中に、一人で稽古か?」 『いろいろ、考えるところがあったので』 「……そうか」 ざりざりと小石を踏む音が闇夜に響く。そうして土方さんは私のもとまで歩いてきた。 「おめぇはそうやって、一人で抱え込むんだよなぁ」 『っ』 「話してやってくんねえか、この俺に」 誰が彼を鬼だといったのか。彼のどこが鬼だというのか。私には菩薩か何かのように思えてならない。彼はいつでもそう、私の欲しい言葉をくれるのだ。 『私、嬉しかったんです。皆とまた会えたのが。土方さんと、会えたのが』 「ああ、俺もだ。またこうして会えるたァ思ってなかったよ」 『私はやはり、新選組として刀を振るいたかったんです。今だって、そう』 「……」 『でもやっぱり変わってしまった新選組が怖くてたまらない。矛盾してるんですよ、私は』 結局私は縋ってしまっているのだ、新選組を。 「花」 『はい』 「後ろを見んじゃねえよ阿呆」 『っ』 「前だけ見てろ。てめぇの目指した道は後ろじゃねえだろ」 『ま、え……』 「ああ、前だ」 私は伏せていた顔を上げ、前を見た。そこには土方さんがいて、私を見つめていた。 『あ……、』 「迷うことは悪いことじゃねえ。矛盾だってする。でもな、後ろ向いて後ろ下がったってなんにもなりゃしねぇさ。それに、誰もそんなこと望んでねぇからな」 『土方さんも、土方さんも?』 「ああ、当たりまえだろ」 土方さんの言葉に、澄んだ曇のない眼に思わず私の目頭が熱くなる。 「花、刀を出せ。少しだけ鞘から出すだけでいい」 『え?』 「早くしろ」 『は、はい!』 私は言われたとおり鞘から少しだけ刀を覗かせた。 そしてその刀に土方さんの刀が交わった。 甲高い金属が織り成す音が響き渡る。 『金打、ですか?』 「ああ。おめぇは前を向くことを。俺は誠を貫くことを誓い合った」 『!』 「あとはこの再会とこれからの戦のことを込めて、だな」 ふ、と笑みを浮かべた土方さん。私も思わず頬を緩める。 ああ、やっぱりこの人はすごい人だ。そう思った。 再会は刀の響き 金打の音が心と身体に染み渡っていった。 前|× 戻 |