一刻ほどすれば、元々酔っ払っていた永倉さんは夢の中だ。座布団を枕に鼾をかいて眠っている。

明るかった外も陽が落ちて暗い。



「にしても、綺麗になったな」
『また、藪から棒に何を言い出すんですか』
「本当のことを言っただけだぜ?女の三年ってのは、長いもんだな」
『長くて、でも短かったです』



新選組時代、十番組の伍長を勤めていた私。つまりは原田さんの部下だった。同じ組ということもあり、大体同じ時間を過ごしていた。新選組が出来上がってからは、原田さんと一緒にいる時間が圧倒的に長かったのは言うまでもない。

今思えば、癖の強い幹部ばかりだったと思う。その中でも原田さんは兄貴分だった。時に厳しく時に優しく。情や義理に厚く、頼りがいがある。しかし時には冷酷にもなれ、隊士の多くはそんな原田さんに憧れていたし慕っていた。

私も、そんな一人だった。

女として生きることをやめ、刀を手にした私。それでも、たまに信念が揺るぎそうになって泣きたくてたまらなくなる時もあった。

そんなときにそばにいてくれたのはいつだって原田さんで。武士としても女としても、私をきちんと見てくれた原田さんに私は甘えっぱなしだった。



「無理は、してねえか?」
『ふっ……相変わらず、優しいんですね……貴方は』



大きな手の平が私の頭を撫でる。



『新選組を離れて、会津藩士になって、もう会えないと思っていたみんなと再会して……後悔するときもありました。でも、後悔したってどうにもならないんだって』



私が何度後悔したって、その事実が変わることはない。失ったものは戻ってこない。



『だから、前だけ向くことにしたんです。今の自分にできることが何か……まだ、わからないですけど』
「……変わってねぇみたいで良かったよ」



琥珀色の瞳が細められる。

原田さんの優しさが、言葉だけじゃなくてその全てから伝わってきて、視界が潤む。


そうすれば原田さんの指が私の目尻の雫を払う。



変わらぬ優しさ



前へ進む、勇気がもらえた。




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