「大丈夫ッスか」
『あれ……君は……』



先ほど声のした方から歩いてきたのは一人の少年。こう言うと申し訳ないが小さい。きっと1年生。いや、確か一年生だ、彼は。



『越前、リョーマくん?だったっけ?』
「ッス」



青学男子テニス部1年レギュラー、越前リョーマくん。最近の青学で嫌でも耳に入ってくる子の名前だ。

不二からもよく話は聞かされている。もっと言えば裕太くんからも話を聞いている。なんでも試合をしたのだとか。



『声出してくれたのって、君?』
「まあ」
『そっか。助かったよありがと』
「……センパイ」
『んー?』
「ああいうの、嫌じゃないスか?」
『ん?』



真剣な目であたしを問い詰めてくる越前くんにちょっと怖気づく。



『……嫌だよ』
「じゃあもっとちゃんと反論すればいいじゃないっスか」
『……世の中そんなに甘くないんだよ、越前くん』



彼の言っていることは正論だ。そして合っている。

でも、あたしにはあたしなりに考えるところがあってああいった対応をしている。



『女の子っていうのはさ、面倒な生き物なんだよ、越前くん』



特に恋に恋する女の子たちはそうだ。一筋縄ではいかない、話なんか通じないと言っても過言ではない。

自分の中に世界を持っているのだから。その世界を崩しかねない存在を許せないんだ。そう、あたしのような存在が彼女らには邪魔でしかないんだ。


不二周助という存在を憧れ、そして心に住み着くようになる。そして遠くから時には近くから彼を見つめることによって住み着いた彼が大きく成長してゆく。そうするとあるときから感情は憧れという感情から好きというものに変わるのだ。

しかしそれは偽り。あくまで彼女たちが好きになったのは自分が心の中で育てた不二周助なのだ。

だから現実世界で予想外の行動をする彼を受け入れられず、その予想外の行動の先にいるあたしという存在を妬み恨んでいるんだ。



「センパイが何考えてるのかはわかんないッスよ。でも、そんなこと続けたって意味ないと思うッス」
『……そうだね、言うとおりだよ』
「俺だって、今日はたまたまここ通りかかっただけだし」



ふいっと顔を背けて拗ねたように言う彼が可愛くてあたしはクスっと笑った。



「……なんスか」
『いや、不二は可愛らしい後輩を持ったんだなって思って』
「嬉しくないッス」
『そっか。男の子に可愛いは禁句だったね』
「……一回、不二センパイと話してみたらどうッスか。ちゃんと」



ほんと、この一年生はすごい。出来る人間というのはなんでも出来てしまうようで。天は二物を与えずなんて嘘ばっかりだ。



『ありがとね、越前くん』
「ッス、笹原センパイ」
『!』



彼はそのまま背を向けてその場を去っていった。



首なし騎士の慕



いい後輩じゃない、不二




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