あたしと不二が保健室にたどり着いた頃、もうすでに始業のチャイムは成り終えていた。比較的真面目である不二が一時間目にいないとなると今頃教室は騒がしいのではないだろうか。一抹の不安がよぎる。



「あれ、先生いないみたいだね」
『……』



あの養護教諭め、月曜の朝はいつも遅いんだ。教師じゃないからって調子に乗って月曜日は毎回10時を過ぎないと学校へやって来ない。校長にでも言いつけてやろうか。



「しょうがないや。とりあえず冷やさないとね」



あたしを椅子に座らせると冷蔵庫から氷を取り出しそれを氷嚢へと詰めた。それに水を入れてあたしの頬へと押し付けた。あたしは不二のそのあまりにも手馴れた作業に関心していて、感覚が脳へと伝わるのに少々時間がかかった。



『つめたっ』
「まあね」



ニコニコとしている不二。こんな顔のどこがいいんだ。殴りたくなってくる顔1位だよ、あたしにとったら。

でも熱を持った頬に氷嚢は心地が良かった。そんなに酷いとは思っていなかったけれど、これほどまでに熱を持っているのだから酷いのだろう。



「それは僕のせいなのかな」
『わかりきったこと聞かないで』
「あらら、怒られちゃった」



悪びれた様子のない不二に私はまた溜息を零した。

不二はこういうやつだ。幼馴染をやっていれば嫌でもわかる。


でも、あたしだってわかってるんだ。不二が悪いわけじゃないってことを。

不二がテニスがうまいのだって、顔がいいのだって狙ってやってるわけじゃない。不二とあたしが幼馴染なのだって偶然に過ぎない。

悪意など、これっぽっちもない出来事に過ぎないんだ。

そんな次元のことをいちいち気にしているあたし自身に問題があるんだ。



「ごめんね」
『っ』



眉をひそめて謝る不二にあたしは言葉を失った。

ムカつく。
ムカつくムカつくムカつく。

そうやってあんたは人の心を揺さぶるんだ。

悪いのは僕だって言って悪いのあたしだって思わせる。


どうせ悪者はあたしなんだって。



お菓子の家と女殺しの末裔



一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。