「急に呼び出して、どうかしたんですか?」
『うん。急にごめんね?呼び出したりして』
「いいえ、気にしていません」
『そっか。ありがとう』



場所は屋上。呼び出した彼は時間ぴったりにこの場所を訪れた。

彼らしくてそして彼らしくない行動。



『言いたいことがあってね』
「なんでしょうか」
『じゃあ、言うね』



私は逆光メガネで見えないはずの瞳を見つめた。そして目があったと思って私は口を開いた。



『私、別れたの』
「っ?」
『昨日ね話し合ってさ。別れようって。まあ、もともとそんな仲ってわけじゃなかったんだけどね』



昨日のことを思い出して、笑いたくなるのをこらえて私は話を続けた。



『後悔とかはなんにもないんだ。むしろ別れたことでもっと仲が深まったきがするよ。だって私も彼もさ、おんなじものが好きだったんだもの。びっくりだよね』
「なんの、はなしを……?」
『私ね、昨日柳生と別れたんだ。仁王』
「!」



ニコリと笑う私と対照に驚きを全く隠せていない彼、仁王雅治。



「……」
『早いうちに、こうして直接言いたくてね。呼び出したの』
「……なんでじゃ」
『……』
「なんでじゃ……のう、名前」



何かを耐えるようにして顔を歪めた仁王は、つけていた柳生のカツラとメガネを外した。声も、彼のものになっている。



「俺は、俺はっ」
『優しい仁王。優しすぎるんだよ』
「!」
『優しい君に、私も柳生も気がつかないわけないじゃない』
「俺は、優しくなんかないぜよ。醜くて、汚くてそんなやつじゃ……!」



自暴自棄。仁王らしくない叫び声が私たちしかいない屋上に響いた。



『汚い関係で言えば私と柳生の方。真面目に恋愛してる人を馬鹿にする行動だったって、私も柳生も反省してるんだ』
「おまんさんらは、お似合いじゃった」
『どこがよ。表面だけへらへら笑ってただけよ』
「俺は、名前の笑顔が好きじゃった!」
『だから、柳生になりきってまで私のそばにいてくれたんでしょう?』
「っ」



仁王は優しいから。いくら柳生になりきれても、なりきれてなんていなかった。だって彼は酷く優しいから。



『私は、そんな仁王の優しさに甘えてた。だから今の今まで間違いを続けてきた。でも、気がついたの。それじゃ、ダメなんだって。柳生もね、言ってた』
「俺、はっ」
『もう、いいよ?仁王は、仁王でしょ?私が好きなのも柳生が好きなのも、仁王だよ』
「っう、あっ……!」



膝から崩れ落ちた仁王をどうにか支えて抱きしめる。体は鍛えられていてすごく力強いのに、でもどうしてか抱きしめているソレが弱々しく儚いもののように思えて、私はそっと優しく、壊れ物を抱きしめるようにした。



『仁王、大好きだよ』
「俺も、好いとうよ……名前」
『やっと、仁王からその言葉が聞けた……』
「やっと、俺に言うてくれたのぉ、その言葉」
『残念ながら柳生にも言ったことないよ。こんな言葉』
「そうじゃった、か?」
『うん。流石に本当に好きでもない相手に“好き”だなんて言える人間じゃないかな』



私は体を少し離して、仁王の銀色の髪の毛を梳いた。



「ん」
『こうされるの好き?』
「好きじゃ」
『そっか』
「名前」
『なぁに?』
「名前、呼んでくんしゃい」
『仁王?』
「もっと」
『仁王、仁王』
「名前、名前も」
『ま、さはる?』
「!」
『ふふ』



君が君であるように



初めて君を真正面から見れたよ。






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