彼がいる場所ならば、大概検討はつく。


「俺はいつでもここに居るぜよ。やぎゅーに困ったらここに来んしゃい。相談に乗ってやるぜよ?」


彼に初めて出会ったとき、そう言って彼は私を撫でたんだ。大きくて少し硬い掌を私は今でも忘れることができない。

いや、忘れるはずがない。

だって、その手は、

ごく最近まで、私のことを触れていたのだから。



私は屋上の扉を思いっきり開いた。その瞬間に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響く。

私はそんなものお構いなしで屋上を歩く。

屋上でもあまり陽の当たらない影になっている場所。そこには思っていたとおり銀色。



『……仁王』
「なんじゃ?」
『……仁王』
「……もう、チャイム鳴ったぜよ。いいんか?」
『うん、いいよ。だって、今は仁王といなきゃいけないんだもの』
「!」



私はしゃがみ込んで、壁に寄りかかるようにして座っている仁王を抱きしめた。

仁王が息を飲むのがわかる。

そして彼の腕は未だ、宙を彷徨っている。



『仁王、ありがとう』
「……礼を言われるようなことはしとらんぜよ」
『ううん。仁王にその気がなくても私はありがとうなの』
「……ピヨッ」



仁王はそっと腕をまわしてくれた。


彼はいつだって私の味方でいてくれた。

彼はいつだって私のことを見ていてくれた。


だから今度は、私が彼に手を伸ばそうと思ったんだ。



君が見せた“本当”



着ていた制服のワイシャツの襟が湿った気がした。




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