『この本は読んだ?』
「……いいえ、まだのようです」
『そっか、よかった』



部活もなく、委員会もないといった彼は、私を引き連れて学校の図書室へとやってきた。

ここを中学校の図書室を侮るなかれ。そこらへんにあるへたな市立図書館よりは立派だ。

私と彼との唯一とも言える共通の趣味。それがSFだったりする。

普段は紳士だなんだと言われている彼がSF好きだと初めて聞いたときは驚いたけれど、ああ彼とも共通点があると知って嬉しかったのもまた確かだった。



「なーにしとるぜよ?」
『あ、仁王』
「……珍しいですね、仁王君。貴方がこのようなところに来るだなんて」
「プリッ」



私たちのところにやってきたのは仁王だった。私たちの本当の関係を唯一知る仁王。

柳生と仲良くなって、その柳生の紹介で知り合ったのが彼、仁王雅治だった。

銀色の髪の毛が後頭部で尻尾を作り出している。独特な話し方をする一方で人懐っこく、それでいてどこか他人と一線置いている。私は仁王雅治という男にはそういう印象を抱いていた。

そう思えば、柳生のSF好きは仁王が教えてくれたものだった。確か柳生のテニスの技に“レーザービーム”があることを教えてくれたのも、仁王だった。



「おまんさんらが此処に入っていくのが見えてのう。ついてきただけじゃ。どうせ、おまんさんらのことじゃからSFの話しかせんのじゃろ?」
「……悪いですか?」



仁王の言葉に少々不機嫌になったのか、心なしか不機嫌そうにメガネのブリッジを押し上げる柳生。それを見てカラカラと笑う仁王。



「悪いとは言っとらんぜよ。ただのう、せっかく二人でいられる時間じゃ。他に別のことをせんのかと言うとるんじゃ」
「……」
「のう?名前」
『!』



トクンと心臓が跳ねた。

まさか、今彼に名前を呼ばれるとは思っていなかったから。



「ま、好きにしんしゃい。明日からはまた忙しくなるしのう。のう?柳生」
「えぇ、そうですね」
「それじゃ、俺は行くぜよ」
『仁王、またね』
「またのう」



ヒラヒラと手を振り、図書室から出ていく仁王。

果たして彼は、私が『またね』と強調したことに気がついただろうか。



フリをするのは特技です



きっと明日もまた、私は貴方に会うだろうから。





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