「名前!」
『あれ、ブン太』
昼休み。
喉が渇いた私はブレザーのポケットに150円を突っ込んで自販機を目指して廊下を歩いていた。
そんな時に背後からかけられた大声。この声のかけ方はブン太しかいない。
実は言うとこの丸井ブン太、柳生よりもちろん仁王より、誰よりも早く仲良くなった男子テニス部員だったりする。彼と私の共通点は“お菓子”であることは、もう予想が出来てると思う。
『どうしたの?』
「それはこっちのセリフっつーか……。あのさぁ、名前。なんかしたかよぃ?」
『……は?』
少し困ったように眉を下げるブン太。そんな彼を見て私は疑問符を浮かべるしかない。
「今日の朝練で、仁王と柳生がなーんか口喧嘩してたんだよぃ」
『え』
ブン太によると、今朝行われた朝練で仁王と柳生が口喧嘩を始めたらしい。それは真田の手によっておさめられた(鉄拳制裁であることはまず間違いない)らしい。そんな口喧嘩の最中、たまたま二人のそばにいたブン太はその言い合いの中で私の名前を聞いたのだという。
「っても、2人が名前のことで喧嘩する意味がわかんね。仁王が名前の悪口でも言ってたのか?」
『……』
「名前?」
『あ、ごめん。教えてくれてありがとね。私、柳生と話してみる』
「おう、そうしてくれよぃ!」
『じゃあね!』
きっと私たちはくだらないことをしているんだと思う。
くだらなくて、滑稽で、馬鹿馬鹿しいこと。
でもそれは柳生にとって、仁王にとって、そして私にとって最重要事項なんだと思う。
『……仁王に、会わないと』
ブン太には申し訳ないが、私が今真っ先にやらなければならないことは、柳生に会い事の真相を明らかにしに行くことでもなければ、仁王に私のどんな悪口を言ったのかを聞くことでもない。
彼に、仁王に会って、それで、
この間のように、彼を抱きしめることだ。
間違いは平行線を辿る私も、柳生も、仁王も気がついていた。
ただ、フリをしていたんだ。
間違いだと、知りながらも。