再会の契約者
−−ピピピピピピピ!
『んッ………あ、さ?』
部屋に鳴り響くけたたましい電子音。それが今が朝だと言う事を告げる。
今の時間、AM5:00
昨日は帰ってきてすぐに寝たから、約12時間寝たことになる。
『寝すぎた………アタマ、痛い……』
私は確か机の引き出しにあったであろう頭痛薬を探す。頭痛薬を探し当てそのままキッチンへ移動し、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
『ふー……』
自分で言うのもなんだが、私は低血圧だ。脳が目覚めるまでかなり時間がかかる。
『あ……今日から、登校か……』
働かない頭でそんな事を考える。
『シャワー浴びよう』
昨日はそのまま寝たのでお風呂に入っていない。私はとりあえず脳を目覚めさせることもかねて、熱めのシャワーを浴びる。
脳が覚醒してきたところで昨日の出来事を思い出す。
『あの人に会わないといいな、今日』
思い出すのは忘れたくても忘れられない金色のあの人。
そんなことを考えながら着替え、朝食を取り、準備を済ましていく。
『行ってきます』
誰が返事するわけでもないけれど。
今はAM07:10。泥門高校までは歩いて40分かかる。それでも少し早いが、まあいいだろう。
学校生活1日目と言えば、面倒な自己紹介が待っている。初めて会う先生一人一人にいちいち……。めんどくさいったらありゃしない。
『碧路悠里です。よろしくお願いします』
余計なことな何も言わない。愛想がないと思われようがどうでもいい。どうせ友達なんて作らないのだから。
そして、放課後。
「よぉ、待ってたぜ」
昇降口の私の下駄箱の前に昨日の先輩は立っていた。私の希望も虚しく再会を果たした。
『先輩、暇人なんですね』
思わず口についた嫌味に、先輩は反応することなく、ただ冷ややかに私を見つめ返した。
「……オマエ、やっぱりアメフト部入れ」
『ッ……嫌です』
「理由は?」
『しないって決めたからです』
「……質問を変える。オマエはアメフトが好きか?」
『ッ!………』
鋭い双眸に私は思わず目をそらす。
「どうなんだ?」
『アメフトは、好きです』
「じゃあ、いいじゃねぇか。よし、行くぞ」
『……は?え、ちょっと!!』
私の意思とは無関係に手首を捕まれ、私はされるがまま彼の後をついていった。
『……って、コンビニ?』
着いた先は泥門高校から一番近いコンビニ。
「無糖ガム、なくなったんだよ」
『はぁ………』
そう思えば先輩はずっとガムを噛んでいる。
ガムを買い終わったあと、私はずっと気になっていたことを聞いた。
『あの……』
「なんだ?」
『名前、聞いてないです』
「あ?言ってなかったか?俺はヒル魔妖一だ。わかったか?糞碧眼」
『え?なにその呼び方』
「おら、行くぞ」
見事にスルーされ、しょうがなく彼、蛭魔妖一先輩の後をついてコンビニを出る。
「ん?あいつは……」
『うちのクラスの……小早川?』
先輩は何かに気づいたようで一点を見つめている。視線の先には私たちが身につけているのと同じ制服を身にまとった小柄な生徒。よくよく見れば同じクラスの小早川のようにみえる。
次の瞬間、小早川らしき人物は地面を蹴り上げて目にも止まらぬ速さで商店街を駆け抜けていった。
『「!!」』
あまりのスピードに私もそして隣にいる先輩も一瞬言葉を失った。
「追いかけるぞ!」
『え?あ、はい』
我を取り戻した先輩は小早川を見失わないように先回りを始めた。私もそれを追いかける。
小早川の走りは完璧だった。スピードの緩急に鋭いカット。まるでRBが多くのディフェンスを掻い潜りフィールドを圧倒しているかのよう。
小早川はそのまま駅まで突っ走り電車へと駆け込み乗車。
先輩はそれをフェンスの上から眺めている。私はフェンス越しに電車が発射するのを見届けた。
「おい、糞碧眼!」
『え!な、なんですか?』
頭上からいきなり声をかけられ私は上を見上げる。
「明日、朝早くこいよ」
『は?私まだ入部するなんて言ってない……』
「……じゃあ、交換条件でどうだ?オマエがアメフト部に入部すればオマエの個人情報は詮索しねぇ。だが入らなければ、俺はこれからもオマエの事を調べる。どうだ?」
『その交換条件って、私に利潤がないです』
「何が望みだ?」
『……そうですね……。私がアメフト部に入部したら、放課後のトレーニングルームの使用許可及びグラウンドの使用許可を下さい。あ、もちろん、個人で』
「それで入部するのか?」
『これで個人情報を詮索しないで下さったら』
「……いいだろう。交渉成立だ。一つ、質問していいか?」
『私も質問が一つあったので、いいですよ』
「何故使用許可なんか欲しがる?」
『単純な理由ですよ。ジムに通うのはお金がかかる。ロードを走ってもいいけど、毎日だと足を痛める。土がいいんですよ』
「……」
『じゃあ、こちらからも質問を。何故、私なんかを入部させたがるんですか?』
「答えは単純だ。使えると判断した。アメフト部の労力として。頭もいい。それに、あの時の反応を見る限り、アメフトを知っているとみた。アメフトのアの字も知らない奴に入られるよか、何百倍もいいと思ったんだよ」
『……』
「それじゃ、また明日な糞碧眼。遅れんじゃねぇぞ!」
そういって先輩はフェンスを飛び降りた。先輩を例えるなら嵐のような人だった。
自分勝手で傍若無人で……それでも、瞳が綺麗だった。
あの瞳だったら信じられる、そんな気がした。
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