不変の入学式
日本の首都である東京の桜はもう散り始めて来ている。四月の上旬。
入学式。
新入生は期待と不安で胸を膨らませ、体育館へと足を運んでいた。その体育館では教員が新入生に目を光らせ、親達は我が子を期待をこめた眼差しで穴が開くほど見つめている。
ここは私立泥門高校。多くの学校で入学式が行われる今日ここでも入学式が執り行われていた。
私は今日この泥門高校に入学する。入学早々目立つことは避けたいのだけれどそうもいかなかった。入試トップの成績の人物に課された課題。新入生の代表の言葉を私は話さなければならないのだ。
「新入生代表の言葉。新入生代表、碧路悠里さん」
『はい』
この時ばかりは浮かれている新入生も、生徒を見つめる先生も、自分の子供を見つめる親達も、私へと目を向ける。様々な目線が私を射抜く。
『新入生代表の言葉。この春、桜舞うこの良き日に、泥門高校に入学出来たことを、新入生一同、大変嬉しく思っています』
紙に書かれた言葉を事務的に述べてゆく。これももう、慣れたこと。入学式、新たな出会いの場である。しかし私の世界は何一つ変わらない。私の日常は不変だ。
『……新入生代表、碧路悠里』
拍手が体育館に鳴り響いた。
私の日常は変わらない。
運命を信じる訳ではないが、運命はきっと、変えられないのだろう。
この時の私は、そう思っていた。
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