トウメイナセカイ | ナノ

後ろではなく前




春大会も終わり、平穏が戻ってきたかのように思えた朝。

特にすることもないはずなのだが、早く目が覚めてしまったため早く学校へ行くことにした。




学校からは何か工事音が聞こえる。


よくよく聞いてみれば、部室のほうからだった。


多少気になり見に行くと、やはりというべきか工事現場はアメフト部の部室だった。



『どうするつもりなの……』

「ケケケ、改装すんだよ」

『!…いつの間に…』



いつの間にか背後にはヒル魔さんが立っていた。



『改装?確かに狭いですけど……』

「あぁ。校長との約束でな、一勝ごとに改築できんだ」

『(可哀相な校長……きっとポケットマネーなんだろうな……)』



私は心の中で校長を憐れんだ。



「お、おい。糞マネ。ビデオ編集終ったか?」

「そんな名前じゃありません」

「ひぃぃぃい。またケンカが…!」



いつの間にか姉崎さんとセナも部室のところまで来ていたようだ。



通りで私に仕事がなかったわけだ。

姉崎さんに任せてたのか。それならば合点が行く。


そう、やることがなかったはずなのだ。疲れてなどいないなのに、何故かとても今、胸が痛い。



『……』

「おい、糞碧眼」

『………』

「おい!」

『!?なんですか?』

「さっきからずっと呼んでんだが?」

『あ、すみません』

「今日ビデオ見るからな。放課後、1年2組の教室な」

『うちのクラス?』

「テレビあっただろ?」

『あ』

「あれでみる」

『……買わせたんですね』

「ケケケ」


不思議に思っていたのだ。他の教室にテレビなんて備え付けられていないのに、私やセナのクラスである1年2組の教室だけにテレビが存在していた。

あれは去年1年2組だったヒル魔さんが学校側に無理やり買わせたものなのだろう。







その日の放課後。

教室のセナの残して私はヒル魔さんのもとへと向かった。




『ヒル魔さん』

「おう、来たか。お前はこれ持て」


これを持てと渡されたのは編集済みの昨日の試合のビデオテープだ。



「糞チビは?」

『教室で写真整理してると思います』

「そうか」



私とヒル魔さんと栗田さんでビデオやらなんやらを運びながら1年2組の教室へと向かう。



ピシャッ!っという大きな音を立てて開いた扉。ヒル魔さんが乱雑に足で扉を開けたのだ。



「まーだ写真終わんねーのか!この糞チビ!!」



この調子だと教室の扉はものの半年で壊れるんじゃないだろうか、と思考を巡らせる。

セナに至っては肩を強張らせてしまっている。



「ごめんね。急かしに来たわけじゃないんだ。部室使えないとテレビ在るのこの教室だけなんだ」

「そういえばなんでこの教室だけテレビが……」

「去年俺らがこのクラスだったんだよ」

「そうですか」





どうやらセナも察しがついたらしい。


私もセナも、ヒル魔さん慣れしてしまったようだ。あり得ないことが当たり前のように思えてしまう。




いいことなのか…悪いことなのか…



皆目、見当もつかない。






「あー、写真整理終ってから帰れよ。全国大会決勝(クリスマスボウル)行きの準備はもう始まってんだ」

「へ?」



教室にセナの間の抜けた声が響く。



「大会って……もう終わりじゃないんですか」


『……』



どうやらセナは知らないようだ。高校アメフトの仕組みを。



「年に2回あるの。春大会と秋大会」




隣でお菓子をもごもご食べ始めた栗田さんの代わりに私が続けた。



『クリスマスボウルに行けるのはね、秋大会の優勝者なんだよ』

「本番は秋だ。秋で勝ちゃあいい」



それを聞いたセナは目を見開いていた。

きっと春で最後だと思っていたのだろう。



「とにかく進をなんとかしねえとな」

『勝ち進むということは、いつか当たるということですからね』

「期待してんぞ?糞碧眼?」

『!!』



ヒル魔さんは口角を上げ私を見据えた。



『……まぁ…期待に応えるしかなさそうですね』



知らないうちに私も口角が上がっていた。




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