面影
アメフトの関係者だと思っていたが、まさか、アイツ自身がアメフトをできるとは思っていなかった。
しかも、だ。
自分専用のプロテクターまでもってやがった。
女がつけられるようなプロテクターは日本じゃなかなか手に入らない。
アメリカ産と考えるのが妥当だろう。
だが、あいつは何故ここまで口を割らない?
そこまで隠さなければならない過去を持っているというのか?
身元が割れて困る家系、ということか?
その刹那、一瞬。
そう、一瞬だ。
昔あった、女のことを思い出した。
まだまだソイツも俺も餓鬼だったころだ。
名前ははっきり言って覚えていない。
覚えてるのは、そう。
綺麗な黒髪と、幼いながらもなぜか似合う黒縁メガネと、
楽しそうに、
でも、
どこか悲しそうに笑う、
そんな儚い笑顔だけ。
何故俺がこんなことを今思い出したのか。
この時の俺には分からなかった。
でも、
まだ、わからなくてよかったのかもしれない。
でも、
早くわかっていたほうがよかったのかもしれない。
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