トウメイナセカイ | ナノ

勝つ、ということ




試合は後半へ。


しかし、泥門は攻め手を欠き、いまだ得点なし。
このままじゃデッドラインは……第四クォーター残り4分50秒ってところだろう。
しかし、時の流れは残酷で、もう時間は、第四クォーター4分45秒。
もう、勝つ見込みはなし。
ここでおわりか。


ドンっ!!!


「「「!!!」」」
「あと適当に流していいぞ。おれはもうあがる」
「えぇぇぇえ!」



ヒル魔さんはヘルメットをベンチに置き言った。
こういう人なのか…。
“勝つ”というもの以外は考えてないんだ。
“勝つ”ことがすべて、それ以外は無意味。


「ついさっきまでは一億分の1くらいの勝つ見込みがあった。それがたった今0になった。あとはハドルで時間つぶされてつみだ」
「い、一応最後まで頑張ろうよ…」
「“最後までよくガンバッた”ってほめられてーのか?勝つためにやってんだ。勝つ気ねえがんばりなんざ何の意味もねぇ」


もっともな意見だが、これは高校生のスポーツだ。
プロの世界じゃない。
しかも春大会。
やることに意義があると思うけど。


「QBのかわりだれがやる?」
「誰もボールなんて投げたことねえぞ」
『……』


このチームは初心者同然。経験が必要なQBなんて大役を勤められる人間なんて存在しない。
ただひとり、私を除いては。


『私がQB、やるよ』
「「「「「えぇぇぇえ!!」」」」
「……」
「悠里ちゃん…危ないよ。だって男ばっかだよ?」
「それに女の子は…」
『じゃあ誰かボール投げられるんですか?私は投げられる。そこらのQBよりはいい腕いてる』
「じゃ、じゃあ…もし出るとして、プロテクターどうするの?」
『自分専用のがあるのでお気遣いなく』
「「「「「え?」」」」」


私は持ってきたトランクからプロテクターを取り出す
しかし、


「なにやってんだ糞碧眼」
『何って着替えようとしてるんですが?』
「選手登録されてねえ」
『実は書いてあったり』


実は今回の試合の選手登録は私が書いたので、勝手に補欠欄に自分の名前を入れておいたのだ。


「テメー……」
「もう少し…」


すると、背後から聞こえてきたのはセナの声。


「『?』」
「抜けるかも…!」
「『!』」
「いや、その、抜けるかもしれないんです。進さん…。もう少し……もう少しで…」
「勝ちてえのか?進に」
「え?そんな大それたことじゃなくて、抜けたらいいな…みたいな…」
「ごちゃごちゃうるせーぞ!糞チビ!!……ハドル!!」
『…セナに助けられたな』
「後で覚えとけよ…糞碧眼」
『あは……』


私は今日、地獄を見るかもしれません。



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