呼び方と笑顔
小早川とのひと悶着のあと、物置小屋もとい部室の中にあったパイプ椅子に座った先輩に私は声をかけた。
『あの先輩、』
「あ?」
『先輩の呼び方なんですけど』
「呼び方だぁ?んなもんどうでもいいだろ」
『……ヒル魔さんで、いいですか?』
「……好きに呼べ」
私がそういえば私を一瞥しまた視線を元に戻しそう言った。
『じゃあ、ヒル魔さんで。……ヒル魔さん』
「あ?」
『私はマネージャーをやればいいんですか?』
「あー……そーだな……基本はな。お前、パソコン使えるか?」
『愚問ですね』
「じゃあ、データ整理しとけ、ほら」
投げて渡されたのはなんの変哲もないUSB
『わっ……と、USB投げることないじゃないですか』
「ケケケ……テメーの実力、見せて貰おうじゃねぇか!」
そういってヒル魔さんは笑った。
現在時刻午前2時。
昨日ヒル魔さんに頼まれたデータ整理中。
昨日のヒル魔さんの笑顔が頭から離れない。
どうしてだろう。
あまりにも綺麗で、あまりにも妖艶で、絵になるような、そんな笑顔。
あんなの、母さん以外見たことがない。
母さん………。
『……できた』
過去の事なんて、どうでもいい。
私には、過去も、未来も、無いのだから……。
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